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『Passion(英題)』に投稿された感想・評価

[タル・ベーラ世界の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』] 70点

前作『Twilight』で認知されたフェヘールがカンヌ映画祭ある視点部門に選出された長編二作目。脚本にはタル・ベーラも加わっている。また、本作品以降、フェヘールは『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の脚本協力をしたきり映画製作には関わっていない。裸電球が眩しく照らす狭く古びたキッチンに、二人の男が向かい合って座り、その奥では一人の若い女がカメラに背を向けて皿を洗っている。すると突然、女の夫らしき白髪の男が立ち上がり、前にいる若い男に対して"踊れ"と命令する。5分近い長回しの中で、若い女と若い男は踊りを強要され、やがて白髪の男は妻を乱暴に引き剥がすと、階上の寝室へと去っていく。この暴力的なオープニングに、本作品の全てが詰まっている(当然の如くラストでもダンスが正反対の意味を持って繰り返される)。不倫を含めた三角関係はタル・ベーラ『ダムネーション』や『サタンタンゴ』のクラネル&シュミット夫妻の関係性を思わせ、本作品を含めたすべての作品で気が滅入るようなダンスシーンが挿入されている。

とここで妙な既視感に気付いて調べてみると、本作品の原作は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』とのこと(どんだけ映画化されてんのよ)。終盤の裁判シーンで、真っ暗な廊下の先に引きずられていく若妻と、ゆっくりと暗闇に消える車椅子の若い男など、闇を贅沢に使ったショットがしっかりキマってて良い。ただ、前作からフェヘールっぽさ(というよりもタル・ベーラっぽくなさ)が薄まってしまい、逆にタル・ベーラが『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を撮ったみたいな作品になってしまったのは残念だった。

ちなみに、フェヘールの二作品は白黒が潰れるほど画質が最悪の状態での観賞だったが、鬱々とした物語と絶妙にマッチしてしまって、逆にこの画質で良かったとすら思っている。初鑑賞時の環境って大切だなと改めて思うなどした。