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アイ・アム まきもとのsomaddesignのレビュー・感想・評価

アイ・アム まきもと(2022年製作の映画)
5.0
市役所で働く牧本の仕事は、孤独死した身寄りのない人の遺体を引き取る「おみおくり係」。故人や遺族を思うあまり、事務的に処理すること良しとせず、周囲に迷惑をかけてばかりいた。そんなある日、新任局長・小野口が非効率な「おみおくり係」の廃止を決定。最後の仕事は老人・蕪木の葬儀となった。蕪木の身寄りを探すため彼の友人や知人を訪ね歩き、やがて蕪木の娘・塔子のもとにたどり着く。

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予備知識ゼロで鑑賞。
2013年のエディ・マーサン主演の「おみおくりの作法」リメイクらしいけど、未見なので新鮮に楽しめた。コメディかと思ったら、思いのほかド直球にヒューマンドラマなのもまたよし。

さまざまな人の死に触れ、生前や遺したものに思いを馳せる…そらもう感動的にならざるを得ないんだけど、牧本が話の通じないコミカルな人物なお陰で湿り気がない。(あまりに話が通じなくて見ていて時々ハラハラしちゃうけど💧)
誰かの人生を巻き戻すように辿るからマキモト。


牧本の最後の仕事となる蕪木さん。不在の蕪木さんの人生を辿るうちに、無愛想で嫌われ者のトラブルメーカーの別の側面が徐々に肉づけされていく。人間の多面性や人生の豊かさと孤独を一人の人生を通じて体感してく作り。「ゴドー待ち」っぽい構造が転じて、不在の誰かが立体的になっていくと同じく、肉付ける人の内面が透けて見えてくる感じ。おもろい。

一人の人生をたどってる筈なのに、現代社会の孤独や経済格差、忘れられる(居ないことになってる)人々、切り捨てられる弱者の構図が浮かんでくるのも良くて、ほんわかヒューマンドラマのふりしてピリリと辛い風刺映画の側面も良かった。



「死刑にいたる病」に続いて話の通じない阿部サダヲを堪能。
今作のマキモトは何らかの障害を持ってそうだけど、病歴や障害についての描写は完全になくて、あくまで彼自身の特性に留めてる。病気についての偏見や誤解を助長しないためだろう。マキモトが大事にしてる価値観が特別なものじゃなくて、本来誰にでも持ち得たはずのものって扱いにもなってる。
どこか浮世離れした言動なのに、見てると牧本の有り様にこそ大事なものが宿って見えてくるのが面白かった。

宮沢りえを筆頭に、満島ひかり、國村隼etc…個性的で印象深いキャスト揃いなのに、決して散漫にならず牧本を中心にして収束してく。牧本の求心力すごい。
印象的な「牧本さん、子供いる?」「いえ、いらないです」「やらねえよ! そうじゃなくて子供居たりする?」のやりとりが好き過ぎる。コメディエンヌとしても映える宮沢りえの懐の深さを感じた。


コロナ禍の影響で撮影が1年延びたせいで、より入念なロケハンが出来たそう。それが功をそうしたか、ロケーションがイチイチ素晴らしい。田んぼの中にポツンと佇む火葬場や、海や山の自然風景の美しさ。色あざやかな世界と、白黒調の室内の対比。市役所の冷え冷えとしたモノクロームの空気と、オレンジ色に輝く夕景の港の対比は生死の対比に見えて感動的だった。

クライマックスの葬儀シーン。全ての出演者が喪服で、白黒い世界観なのに生前の故人の足取りを見るようで、色鮮やかな多幸感あふれるカラーリングに設計されてるのが良かった。

難癖をつけるなら、最も牧本から迷惑を被り、振り回されてきた人物が、牧本の優しい心と大事にしたかったものに気づいて行動するラストはなんともご都合的。とはいえ人志れず、誰にも顧みられることのない無名の人生にも価値があったと思わないとやってられない。納骨堂を無言で囲む人達と雲間から差す光が荘厳で、ちょっと宗教めいた神聖なものを観てる気分になった。

結論)
死生観?死や生についての扱いがとても日本的に感じた。人の生死と関わらず連綿と続く世界や、生前の行いを断罪するより遺したものに光を当てる感じ。リメイク元「おみおくりの作法」が見てみたくなった。


62本目
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