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かがみの孤城の都部のレビュー・感想・評価

かがみの孤城(2022年製作の映画)
3.8
約550頁の長編小説を120分以内に纏め上げることは当然の如く容易ではないのですが、その点はベテランである原恵一監督が適切に取捨選択している印象で、『ここカットされたの!?』といった残念さは多分にありますが一本の映画としての収まりの良さを考えると今の形が最善であるように思います。

しかし映画という媒体の映像作品としては本作の優れている点は原作に大きく依存している節が強く、特に終盤は映像的な構図の陳腐さや心理推移に沿った劇伴による盛り上がりが露骨すぎるきらいもあり、原作の万人に語り掛けるような等しい目線を、ジュブナイル映画の枠に押し込めてしまっているとも取れる。

本作は『不条理な現実と向き合う一歩目に至るまでの物語』で、様々な要因から不登校の身分に位置している七人の中学生達の心理的な機微が物語の主要素として挙げられるのですが、前述の取捨選択により七人の間での交流はあくまでも最低限で主人公であるこころがその経験を通してどう変化していくかという部分が丹寧に描写されています──群像劇の要素が削られたことで結果として観客に与えられる物語への没入感は増しており、こころの心境に素直に乗れる作りなのは好感触でした。

この作りなら他六人の事情はあくまで察せられる程度の処理で充分──作劇に必要な部分なのでそうもいかないのは分かりますが──だっただけに、終盤の矢継ぎ早な情報の開示は問題を並べて単純化させたような趣を感じてしまい、畳み掛けるような真相発覚シークエンスと同列の物として本作の重要な要素が流れてしまっている感覚はあります。
先程述べた演出部分の不和。主に劇伴の扱い方ですが感情の強弱のタイミングに寄り過ぎな部分が見られ、ドラマが着地点へと推進する終盤は特にその傾向が顕著だった為に若干の陳腐化を招いているようにも思えたのもやはり少し残念かなと。

とはいえ本作は観客の感動を勝ち取るには充分の仕上がりで、物語の終盤の盛り上がりには素直に涙させられ、決して問題とその解決を美化しない その現実的な着地と歩み出しには原作同様の感動が得られる作りが成されています。心温まる映画と書くと非常に陳腐に感じられますが、葛藤する個人を支える人や場所を問わない精神的な安寧の重要性を説く物語として真摯な筆致で、作品としての満足度は文句無しに高かったです。
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