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男はつらいよ 純情篇の都部のレビュー・感想・評価

男はつらいよ 純情篇(1971年製作の映画)
3.2
全体的にはテーマも含めて小粒の回。本作の見所はサブプロットとして据えられた博の独立騒動にあるという点で、アバンの新妻との宿屋での遣り取りは格好が付いているが寅の大きな存在感を明示する場面は、本題部分にはあまり存在していないという印象だ。

前述した博の夢を発端とした騒動はある種 寅映画が掲げる人情の縁(えにし)に対するアンチテーゼのようで、義理人情を優先して自分を先送りにせざるを得ない状況についぞ根負けてしまう姿は無謀といえど同情的な気持ちが湧く。というか博一人が去ったら潰れる工場なんてのは遅かれ早かれ潰れるにちがいないよ。まったくよ。

血気ある若人の野心が渡世の人情にやり込められる旧態依然とした国柄を辛く耐え忍ばなくてはならないものとして描いてることも踏まえて、寅映画を時代を選ばない妙作に押し上げる反保守的な視点や態度を改めて認識させられる──こうした博の物語は単体としては印象的だが、本作の寅が向き合う”帰るべき場所がある有難味”に纏わるEPとの調和性は低く、作中で要素が分離している所感があるというのが正直な感想だ。

アバンの新妻の顛末の捻りやドラマの乏しさに関してはそこまで作品評価に影響を及ばさないが、夕子との恋路はそれまでの作品群に優って特徴的な過程を得ておらず、野卑に”上玉”と称されるような魅力もまたキャラクターその人に感じられないのも大きい。

しかし夕子が寅の恋心に気付きつつも間接的にそれに否を突き付ける場面で、寅がそれにまるで気づかないというすれ違いは虚しく、『スパッと別れを言えばいいんだ』と夕子にそれが自分の事だと思わずに言い聞かせる場面なんてなかなかどうして憎めない。
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