車寅次郎の人柄と人生の最大公約数的な秀逸な構成を見せる一作目の完成度に勝る現時点での最高傑作である本作。
寅が送る自由な人生により喪われる多くの物を改めて容赦なく描くことで、寅がその心中に抱えている劣弱意識を改めて色濃く引きずり出し、そこからどうにかこうにかと人生の再生を能動的に図る寅の姿にはなんだか泣かせるものがある。
彼の最大の目的意識はマドンナとの恋の結実ではあるけれど、汗水垂らして働こうとした姿勢自体はしかし誤りではなくて、時間をかければどうにかなったかもしれない彼の道が失恋という形であっさり強烈に閉ざされる構図はますます悲劇的だ。この失恋こそ”いつもの”ことだが、現れたマドンナの相手の男が国鉄勤めという情報開示が齎す寅の感情の機微がひたすらに情緒的で、態度の一変や表情から色がスーッと消える一瞬の哀愁と、この劣弱意識との予期せぬ対峙はある意味 彼の抱える問題の集大成と言えるだろう。
本来は最終作として据えられる予定だった作品らしい濃厚なホンでとても満足だったし、寅が自分の人生の負い目に向き合い、そしてひとつの悲しい答えを得る物語としてよくよく出来ている。
自分の人生の”間違い”に多かれ少なかれ自覚的な彼が、登場人物たちに地道に生きる尊さを説かれるけれど、しかしその本質はまるで伝わっていないのがよく分かる掛け合いの数々も、かなり鋭利な切れ味を感じさせるシークエンスで良かった。
どうしても変われない自分を自嘲しながらまだ間に合う登に義兄弟としての人情を振るう場面や絢爛たる花火が打ち上がる中でさくらと最後の会話を交わし、寂しげにひっそりと夜の街角に消えていく後ろ姿まで……寅度が満開の秀作で見事。