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かがみの孤城のsomaddesignのレビュー・感想・評価

かがみの孤城(2022年製作の映画)
5.0
中学生のこころはある事件がきっかけで学校に居場所をなくし、自室に引き篭もる生活だった。ある日、部屋の鏡が突如として光を放ち、鏡の中に吸い込まれると、そこは海の上の孤城。お面の少女「オオカミさま」に誘われるまま、6人の見知らぬ中学生とともに『城のどこかに秘密の鍵が1つだけ隠されており、見つけた者はどんな願いでもかなえてもらえる』と告げられる。
辻村深月の同名ベストセラー小説を原作とした劇場用長編アニメ。

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居場所のない中高生と、かつて居場所のなかった中高生だった人向け。

原作未読。漫画や舞台化もされているらしいけど、不勉強にも全く触れてこなかった。
原恵一監督のファンじゃなければスルーしてしまってたかも。

ファンタジックで壮大な世界観が、極々パーソナルで小さく・普遍的な問題と裏表なのが面白い。どちらも冷え冷えとした空気で、辛い現実の逃避先にしては居心地悪そうなのが印象深い。飲食物や娯楽品を持ち込みしないとやってらんなそうだし。あの場を逃避先として居心地よく成り立たせているのは、同世代の仲間との関わり合いってことなのかしら。



物語を通じて何も問題解決しないし、キャラクター達の成長も微々たるもの。それでも彼ら自身が直面する困難に立ち向かい、歩みを進めるまでの姿がなんとも頼もしい。傍目には遅々とした歩みでも当人にとっては大きな一歩。そっと寄り添い、温かく見守り(時には本人に代わって憤る)大人サイドの眼差しも良かった。いじめっ子が反省したり、イジメの報いを受けるような安直なカタルシスはなくて、「こちら側からすりゃ最悪な奴、だがあんなんでも誰かの大切な人」とばかりに、それぞれの立ち位置を否定しない構造が誠実に思えた。(イケメン先生のバカっぷりは許し難いものがあるけど)

家にまで押しかけて、カーテン越しにこころを糾弾する同級生達の姿が印象的。
彼女達だって冷静になれば酷いことしてるって気づけそうなもんだけど、集団心理と被害者意識+正義の鉄槌て合わせ技で、常軌を逸した行動に駆り立てられてる。集団で抗議してる姿がシルエットだけで、顔も素性も見えないのがSNSの誹謗中傷の図っぽくて胸が痛んだ。

作画や劇伴の素晴らしさは言うに及ばず、声優陣の演技も素晴らしかった。子供達の演技よりも大人キャラの描き方が印象的で、特にイケメン先生を演じた藤森慎吾の短慮軽薄な雰囲気が良い。生徒に人気はあれど、生徒にすら軽んじられてる感もある。転じて、こころの母(麻生久美子)や喜多嶋先生(宮崎あおい)の大人女性チームの静かな憤りが際立つ。「あれはナイ」の短くて強い怒りが漂わせた言い切りの中に、こころが言葉にできなかった違和感を代わりに言葉にしてあげてる感あるのが泣けた。


それにしても、あの物語上の仕掛けは「1年も一緒にいて気づかないのおかしい」に尽きる。
会話の端々や持ち物で各々違和感ありそうなもんだけど。


5本目
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