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神は見返りを求めるのsomaddesignのレビュー・感想・評価

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
5.0
お互い人数合わせの合コンで知り合った、イベント会社に勤める田母神と底辺YouTuberのゆりちゃん。再生回数の少なさに頭を悩ませるゆりちゃんを不憫に思った田母神は、彼女のYouTubeチャンネルの企画・撮影を手伝うようになる。それほど人気は出ないながらも、力を合わせて前向きにがんばっていく中で、2人は良きパートナーとなっていくのだが……。

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同じ日に「メタモルフォーゼの縁側」を見たせいもあるけど、比較すると全くの真逆で嫌な人しか出てこない。嫌な気持ちにしかならなくて、かすかに見える希望の光にどこまで価値があるのか分からない。

近年、ドスンと胃にくる重たい作品が続いた吉田恵輔監督。「愛しのアイリーン」や「空白」に比べればだいぶライトだけど、やっぱり無傷で終われない。観客の内臓をキリキリ締め付けるようなタッチは「ヒメアノ〜ル」の再現みたいだ。

吉田恵輔作品のムロツヨシといえば「ヒメアノ〜ル」の安藤さん。どう転んでも不幸に落ちるキャラクターで、今作でもしっかり酷い目に遭っててちょっとかわいそう。

タイトル通り、田母神さんが誠実そうなな仮面の下でしっかり見返りを求めてる。「いい人」として消耗されてばかりのおっさんの悲哀であり、蓄積したルサンチマンが暴走してくのが今作の肝だと思う。
自分が思うほどにいい人でもない(なりきれない)人、実態は承認欲求にまみれた凡俗の孤独な中年男性の姿がリアリティあって切ない。行きつけの飲み屋でよく見るわー。
結構序盤からゆりちゃんへの独占欲?承認欲?を爆発させてて、なんなら自分から関係を壊してる。恩を仇で返されてるように見えない。素人が片手間にやった編集と、プロがガッツリ作り込んだ編集じゃあ天と地ほどの差がつくのはしょうがなかろうに……。

一方で、善意でやっていた行為がいつの間にか当然のことにすり替わり、知らず知らず便利使いされてしまう状況はどこにでもありそう。(ex気を利かせて書類棚の整理をしてたら、いつの間にか自分が整理担当みたく扱われちゃってたり)

ゆりちゃんはそもそも何故YouTuberを志してるのか謎で、会社員に馴染めず生活の糧を模索した結果なのか、ただの顕示欲なのか?🤔 YouTubeのキャッチ「好きなことで、生きていく」てほど、ゆりちゃんにやりたいことがあるようにも見えない。演者としても裏方としても色々ツメが甘くて、現場猫みたいな「ヨシ!」精神で突き進んじゃうあたり自業自得なトコも多い。田母神さんの善意に甘えてるってより、意図せず誰かに尻拭いを押しつけがちなのかも。
無邪気なやる気と愛嬌あるキャラクターは岸井ゆきのの好演の賜物。どんどん嫌な奴化するのに、弱さゆえの強がりや怒り、苦悩の姿がリアルで立体的な存在感だった。


今年ベスト級悪役の梅川。若葉竜也の飄々とした佇まいとは裏腹な言動が、ホントに「最低だから最高」としか言えない悪役っぷり。具体的には極悪なことはしないのに、ほんと卑劣で大嫌い。フィクションの悪党と違って、身近にいてもおかしくない程度の💩野郎なのが余計腹立つ。金を貸して惣菜パンを食べるしかない田母神さんを尻目に、嬉々として焼肉弁当を頬張るフード描写もまた良し。
映画的には梅川が酷い目にあってこそカタルシスがありそうなもんだけど、梅川なら賞賛も批判も折り合い上手につけて消化してしまいそうでホント腹立つ。実際田母神さん・ゆりちゃんからの絶交に対して「え、俺末期なの⁉︎ wwww」て嬉々として全く意に介さないあたり無敵すぎて嫌になる。ぶん殴ったところで死ぬまで梅川は変わらないだろうし、徐々にこちらから距離を置きたい悪役っぷり。リアルかつタチ悪。

クライマックスの炎上シーン。明示はされないものの凄惨な状況が窺える。シーンの前後で田母神のパーカーと白いスカートの過去と現在の対比があって、ネット隠語とWミーンになってる皮肉。

惜しむらくは、YouTuberをはじめ若者描写がステレオタイプっちゅーか作り手の偏見に満ちていて、かつて自分達自身もされてきたであろうオッサンの色眼鏡を繰り返してしまって見えること。一応フォローや擁護の台詞が用意されているけど、とってつけた感がハンパない。実際、監督自身今作の制作を通じてYouTuberを見下している自分に気づいたそう。
人の浮き沈み含め人生そのものがコンテンツとして消費されてしまう危うさや、俯瞰してみれば配信全盛の昨今と旧世代の映像文化の対立の映画でもある。頭抱えて血ヘド吐く思いで苦労してるのは一緒でも、日々の泡として消える儚さと時代遅れとして淘汰される切なさの対比。監督自身を田母神に投影して、時代遅れの作り手の自戒や悲哀が透けて見える気もしてくる。「残るものがそんなに偉いんですか?」って問いには「残るから偉いんじゃない、偉大なものは残ってく」と思った。


頭からお尻まで胸糞悪くなる要素しかないので、見る人を選ぶ作品ではある。
ラストシーンの田母神さんの姿が印象的。明るい日の光に向けて踊り続ける背後で、血まみれの背中。インフルエンサーの光と陰を端的に表してるようで切なくなった。(それもまた紋切り型の見方なのかもしれないが)


48本目
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