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神は見返りを求めるの都部のレビュー・感想・評価

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
4.0
𠮷田恵輔監督の作品といえば、大傑作『ヒメアノ〜ル』の衝撃から最新作の本作に至るまで人間の陰湿で最低な暗部を克明に描く一見すると性悪説的な筆致が見られる作家で、しかしながらその斬れ味は凄まじく またただ人間の悪性を晒すのではなくそんなどん底の人間模様に差す仄かな光を提示する匙加減に優れているのが特徴。
本作もその例外になく、YouTuberやそれに宿る承認欲求をテーマとした作品として、これがまたなかなか嫌な気分にさせてもらいました。

まず一般的な感性からすれば嫌と感じる人間しかこの話には出てこなくて、売れっ子YouTuberの絶妙な軽薄さであるとか帰国子女のデザイナーの自分以外の全てを見下したような言動であるとか日常に点在する陰湿な人間像であるとか。

それらが解像度が高く描かれて役者とその役割を全うしているので感心するのですが、主要人物である田母神演じるムロツヨシと優里演じる岸井ゆきのの演技力は中でも際立っており、次第にエスカレートとしていく確執は作品として見応えある演技合戦として昇華されていて、この二人の主演の演技により作品の味わいはひと味もふた味も変わっているのは明らかです。

そのハイライトは関係が拗れた後のファミレスでのワンシーンで、お人好しの仮面を被れなくなった田母神の激昂と物怖じせずクソ女を続ける優里の間に漂う緊迫感には非常にヒリつく物があり、この居心地の悪さと修羅場を迎えて『何かが起こってしまうのではないか』という緊迫感が非常に絶品でした。

荒唐無稽に思えるコミカルな切り出しから、後半に転調を迎えて醜悪な急展開を繰り返していく監督特有の独特の語り口も健在。
しかし個人的には痛々しい優里の活動模様であるとか田母神が邪険に扱われ始めるとかの前半の見てられなさが凄くて、今回は二.三度再生を停止して休憩を挟むほどの代物だったので、後半の互いが言いたい事を最悪な方法を用いて言い合うパートの方がまだ爽快感がありましたね。

承認欲求が暴走しがちな現代に於いて、では本作がYouTuberという時代の象徴を批判した作品であるかと言われるとそれは違うように思えて、その悪性を描いた上で その為に自分を安く切り売りする人間の薄弱さであるとか無償の善意で成り立つ関係性の不健全さの話をしている。

『YouTubeの動画は後世には残らないかもしれないが、しかし後世に残るものが果たして偉いのか?』と刹那性を帯びたコンテンツの価値を改めて問いかける作品となっているのが印象的でした。
(本作は悪辣な作品なんですけど、私はこういうところ滅茶苦茶優しいと思うんですよね)

本作のラストシーンは擦り切れた登場人物が迎える一種の初心回帰というささやかな救いであり、しかしその姿が示すのはその普遍的な行動に伴う傷の数々を一つのシーンとして捉えた非常に象徴的なものであるように思う。つまり最高。最近レンタルが開始されたので、今年のベスト10入りも有り得る本作の年内の鑑賞をオススメします。
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