花火

夜を走るの花火のネタバレレビュー・内容・結末

夜を走る(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

圧倒的な力作。自動洗車機のモップにかけられる車の内部から撮られたファーストカットからして凄みが半端ではない。化物のように写し出される火花迸る金属工場もまた凄まじい。

彼らの運命が狂い始める夜の、居酒屋での場面を写した画面の端に写り込む足立智充とその顔に落とされた陰影の深さ。発見された白い袋から髪だけが外に飛び出た死体と、寝転ぶ玉置玲央のカットつなぎ(しかも娘に「死んでるの?」とまで言わせる周到さ!)。下手なホラーよりよっぽど恐ろしく、特に帰宅した玉置が殺した女性の霊を幻視するシーンは戦慄の極み(カーテンが揺れているのも素晴らしい)。

ごく僅かな出演ながら圧巻の貫禄を見せつける松重豊の本気ぶりが嬉しく、ヤクザの威圧感を全霊で出し切る彼に呼応するように、いよいよ本気で脅し始めるくだりでカメラの位置が反対に移り彼と脅される工場の社長とをそれまでと逆向きの構図で捉えるその鮮やかさに舌を巻く。追い詰められながらも拳銃を手にした足立が宗教施設を探し回るワンカットの移動撮影は、渡部寿岳が現代日本映画界最高の撮影監督の一人であることを改めて確信。

凶暴なまでのエネルギーは結局、何かに結実せずに映画は終わるのだけれど、不思議と不発感はない。それは玉置の口から語られた"起きてしまった取り返しのつかない事態を、まるで何事も無かったかのようにやり過ごす"ことが片方の男にまとわり続けるからだと思う。それを選んだ方は無間地獄のような世界(現実)を生き続けることになり、もう片方の男は暴走の末にひとまずそれまでとは違う"別のステージ"へと跳躍する。
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