otomisan

さかなのこのotomisanのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.0
 その頓知気ぶりが心配なくらいだが、そこがそれ、彼のいる人間界も程よく、生息数もそこそこ?魚種的には日本の近海は豊富にさかながいるんだそうだが、そんな自然界も彼の天然自然に適合しているようだ。そのてん、かの頓知気も一周回ってもう一度嵌ってみようかという感じでいい。
 時代はヘドラ、CVCCやカムバックサーモン、脱公害国以降である。開高健がハドソン河口でカマスを釣って東京湾を嘆いた後日である。いきものが復活する時代の申し子のようだ。

 やがて頭にフグが生えるようになるそうだが、長じる以前すでに彼はフグ的存在、はぐれ者であるが恐ろし気な「総長」、「かみそり」、「狂犬」もかのフグ的天然にはスカを食う。ただ、彼らには独特の好奇心があり、このフグ男の一筋縄ではないところ、ただし、それは「大総長」の片鱗を感じるのではなく、彼らにとって異世界を垣間見せる異人を感じさせる、という事だろう。
 一方で、この異人はやはりトンチキ野郎であり、醤油が魚の味を損なうお譚小茄子と任ずるしょうがない奴である。醤油屋には醤油屋の存在意義があることをまだ「総長」の方が常識的なりとも承知しているのである。ちっとも噛み合いそうにない連中、更には噛み合うばかりで交われないはずの連中まで、フグ男君経由の目の前の海つながり、アニサキスなしのイカつながり、散歩するかぶとがにつながりで独特の生態系を作ってゆく。これが、そこは人間界であって、後年この同君の社会的漂流やら無意識失恋やら、底生動物状態からフグ男回復に向かわせる契機をもたらす。
 調子のいい話のようであるが、フグ男君の能動性、無頓着?楽天的とも見える開放性が彼らを引き寄せるのであり、同君のさかなバカや常識なし、トンチキだけが同君を特徴づけるわけではない。そこが「総長」たちだけではない、多くの人に、この異人を目にする度、そのひととき、また嵌ってみようかと思わせる妙なアトラクターを覚えさせるのであろう。

 ところで、裏話のように同君の家族の魚嫌いや父親と兄弟の消息がちらりと紹介される。かみそり寿司のカウンターで明かされる魚嫌いに目の覚める思いだが、半生それを隠し通してきた、親とはそんなものでもあるのだ。
otomisan

otomisan