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柳川のumisodachiのレビュー・感想・評価

柳川(2021年製作の映画)
3.9


やったー!ついに2022鑑賞作品のラストまでレビューが到達した!というわけで、チャン・リュル監督が日本を舞台に描いた作品。

不治の病に侵されたドンは、兄と一緒に日本の柳川に旅をすることにする。そこでは兄弟の幼馴染で兄の恋人だったチュアンが暮らしていた。スムーズに彼女と再会できた二人だったが、彼らが泊るゲストハウスの主人もまたチュアンと親しくしている様子で……。

ファムファタールと3人の男たちという構造。過去の想いと現在の想いに折り合いをつける大人たちの姿が描かれていた。

川を中心にした柳川の景色や、映像が持つ独特の空気感がグッとドラマを濃くしているわけだが、なんというか……どうやっても今と引き離せない過去からの余波と、どうやっても逃げられない今の現実が何重にも呼応し合って、常にさざ波を立てているかのような印象で、非常に文学的色彩が強い作品。

本当は同様のテイストで撮られた過去の2作品も観た方がいいのだろうが、残念ながら私は未見。それでも心惹かれるものがあった。

正直言って、チュアンの人物造形にはピンとこないというか、あんな女性いるのかなあ?という気がしないでもないのだが(そもそも何のビザで日本に住んでるの?)、男性たちの心模様はとても繊細でリアリティがあり、寂しくもあり愛おしくもあった。若いころに置き忘れていた強い感情だったり、今行き場を失ってどうすることもできない強い感情だったり、そういう非常に人間らしい(でも普通は心の中に留めておく)感情が思わず漏れ出るとき、そこにドラマが生まれる。本作にはそういう瞬間がいくつもあって、そのどれもがとてもさりげなかった。こういう心の襞のようなものを掬い取った芸術作品は大好き。

あと、兄の描き方良かったなー。強がってしまったり心配したりといった弟への複雑な心情がとても良かった。








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