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Flowのumisodachiのレビュー・感想・評価

Flow(2024年製作の映画)
4.8


ラトビアのクリエイター、ギンツ・ジルバロディス監督が手がける長編作品。アカデミー長編アニメーション賞受賞。

世界が大洪水に見舞われ街が消えていくなか、1匹の猫が旅立つことを決意する。流れてきたボートに乗り込んだ猫は、一緒に乗りあわせた動物たちとともに、想像を超える出来事や危機に襲われる。時に運命に抗い、時には流され漂ううちに、動物たちの間には少しずつ友情が芽生えはじめる。(映画.comより引用)

自然の中で1匹だけで生きている猫。かつて飼い主が住んでいたと思われる家で寝泊まりしている。明らかに飼い猫である彼(彼女)がどうやって生き延びてきたのかはわからない。魚を自分で獲ることもままならず、野犬たちに追い回されたりとサバイバルな日々を送ってきたのだろう。そういった冒頭のシークエンスから目が引き付けられた。

本作のポイントは、アニメーションが持つリアリティの匙加減だ。自然はかなり現実に近いレベルで描写されているが、動物たちはけっこう平坦な表現になっている。RPGのイベントアニメーションのようというか……『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』を初めて観たときの感覚に近いなと思った。少しだけベタッとした質感を残しているからこそ、ファンタジーに没入できる余地があるというか。ゲームの映像表現が好きな人は多分この感覚をわかってくれるんじゃないかと思う。

そして、突如としてやってくる大洪水。あれよあれよと森も家も飲み込まれてしまう洪水は恐ろしいが、あくまでも猫目線なので淡々と危機が迫ってくる。飼い主たち(人間たち)もこうして大洪水によって滅びたか去ったかしたのだろう。愛する家を捨て、流れてきた舟に飛び乗ってから、猫と乗り合わせた動物たちとの冒険が始まる。

本作について、『野生の島のロズ』よりも動物の生態がリアルでいい(言葉をしゃべったりしないから)みたいな感想もいくつか見かけたが、ぶっちゃけベクトルはおなじだよね?まったく種類の違う動物たちが、意志疎通をして知恵を絞り、同情したり喧嘩したりしながら生き延びようとするんだから。本作だって、十分にファンタジーでありおそらく現実ではあり得ない。

仲間となる動物たちのキャラクターは非常に丁寧に描かれていて、誰が誰をどう思っているか、それぞれどんな習性があるかなどが細かく描かれている。猫も、自分を救ってくれた鳥に親愛の気持ちを抱いたり、自分で魚を獲れるようになったりと変化・成長を見せていく。単純にこの辺りのストーリー自体も私は楽しめた。

しかし、それ以上に心を掴まれたのは映像だ。空、海、光、森、巨大建造物。猫の視点は狭く、森の仲や船の中にいるときは視界が限られているのだが、要所要所でグッとパンして広い広い世界が姿を現す。この鮮やかさといったら!!特に、鳥同士が戦うシーンの空と光の表現が美しすぎて、ちょっと泣いてしまった。

さらに、「死」を暗示するリアリティラインを大幅に超えた映像表現や、陸に住む動物と海に住む動物との対比など、神秘的ともいえるほど深く入り込んだ挑戦も見受けられ、最後の最後まで瞬きすることすら惜しいくらい魅了された。傑作。

ただ、ちょっと犬のキャラ設定だけちょっと頭悪そうすぎてひどくない?犬が観たら「犬差別だ」って怒るよ多分!


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