かなり悪いオヤジ

柳川のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

柳川(2021年製作の映画)
3.6
中国朝鮮族3世のチャン・リュル監督、中国では小説家として活躍されていたらしいが、その民主的発言が中国共産党の目に留まり以後創作を禁止されてしまったという。自身の監督した映画が韓国で好評をはくし、同じく元小説家の映画監督イ・チャンドンから支持されたという経歴の持ち主である。

福岡の柳川を舞台にした本作は、(小説家出身の映画監督だけに)どちらかというと台詞に拘った作品なのかなと思いきや、柳川の特に運河をゆったりととらえた映像が主役である空間重視のアート系作品だ。しかし、日本人の私が見ると、それは(中国あるいは朝鮮人目線の)どこか異国情緒に感化された毒々しさを帯びており、違和感を感じないではいられない。

末期癌におかされた弟ドンと、娘の教育に熱心なかみさんの尻にしかれている兄チュンが、柳川に住んでいる兄の昔の恋人リウ・チュアン(中国語表記で“柳川”)を訪ねるお話。兄のチュンはステレオタイプの中国人そのままで、尊大に振る舞うくせにEDの役立たず、柳川住民に対してもどこか見下した態度を隠さないイヤーな男なのだ。

そこへいくと死にかけの弟ドンは、辿々しい日本語で住民と接し腰も低い。その昔、北京語を話さないリウのために自らなまりを捨てた変り者である。つまり、柳川という異空間の中で(中国当局に目をつけられた朝鮮人監督のように)中国色に染まりきれないアウトサイダーの男女2人が、自分探しの旅の途中で迷子になるロスト(迷子になる)ストーリーなのである。

3人が世話になる民宿の主人(池松壮亮)とその娘、その主人がロンドンで会ったというカズオ・イシグロや柳川出身の元ご令嬢オノ・ヨーコは、心のどこかで疎外感を感じている日本人側のストレンジャーたちだ。兄と弟、柳川とリウ・チュアン、後海と柳川、そして、中国と日本...。似ているようで違っている2つの境界線が曖昧化した時、迷子になった心優しきストレンジャーたちは、ただそこに堀留=うずくまることしかできないのかもしれない。