ふじこ

リメンバー・マイ・ストーリーのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

泣いちゃった…こんな幼い少女に、自分の価値を疑わせるような事があってはいけないと思う。

10代前半くらいに見える少女ゾーイ。恐らく義父の暴力、それでも男に縋る母、まだ幼い弟。
本来であれば彼女もまた大切にされて庇護されるべき存在なのに、顔に青あざを作って登校し、そのまま他の子のように可愛い服も綺麗に整えた髪もなしに涙を拭ってアルバムの写真を撮られ、誰にも気にかけられる事なくトイレに籠もる。

私の過去が 今の私を決める
これが私
私は、見てもらえなくて 聞いてもらえなくて 望まれていない
それが私
存在する価値があったらの話だけど

そして父親は逮捕され、まだ幼児の沢山面倒をみた弟とも引き離され、里親を盥回しにされる。
恐らく激しい怒りや恐れ、諦めや"試し行動"が激しかったせいだと思うのだけれど、問題のある家庭の子はそうであると本で読んだ事がある。自分の価値を疑い続けて酷い行動を繰り返し、どこまでやっても自分は愛されるのか、捨てられたりしないのか。相手の許容を計り、同時に自分の価値を推し計っているんだろう。
こんなに酷い事をする自分でも、愛してくれる?こんなに酷い言葉を吐く自分でも、許してくれる?って。悲しすぎる。本当ならそんな事を考えなくたって良いんだろうに。そんな事をしなくても愛されているのを知っているから。

善意から里親になろうと考える人が悪い人だとは思わないのだけれど、軽い気持ちの善意だけで救える程にこういう家庭から来た子達の傷は浅くないのだと思う。深く傷付いている子に頭を撫でておもちゃを与えれば愛に目覚める訳ではなし、人間に虐待された犬猫だってもっとずっと複雑だ。愛そのものを知らないか、疑っているか、信じていないのだから。

そしてある黒人女性の家に里子に出され、最初は同じよう本を破いて話し掛けられてお無視して反発して抵抗して荒れながら自分を守っていたゾーイだけれど、それでも自分に関わってくれて料理を教えてくれたりする彼女に、"少しずつこの新しい生活を信じようとしている"と思ったのだけれど、善意からプレゼントされた子供用のドレスから、かつての生活で母親がドレスの事で義父に酷く怒鳴りつけられていた事を思い出して思わず激昂して暴れ、触らないで!嫌い!大嫌い!と反発をみせる。

「大丈夫」って言ってくれる人がいたらいいのに
「きっといつか、普通に感じる日がくる」って言ってほしい
「1人でも大丈夫になる」って言ってほしい
「私を抱き締めてくれて、「心の強いお母さんが現れる」って言ってほしい」
きっと私の力だけじゃ足りないから

過去のトラウマを思い出して思わず反発してしまったけれど、本当はそう思っていて、沈んだ様子の養母をそっと影から様子をみたりしている。
あんな事をするつもりはなかったんだなって。
後悔してか、プレゼントされたドレスを着て里親の前に現れようとして恐らく里親斡旋の事務所に電話を掛けているのを見付け、またこの里親の元からも追い出されてしまうのだと悟ってゴミ袋に自分の荷物を投げ入れていく。
切なすぎる…。着ているのを見せて、驚かせて喜ばせようとしたのに…。
乱暴に手に取った結果、最初の家から持っていた女の子の姿の人形をタンスにぶつけて割ってしまう。
複雑な表情でそれを見詰めるゾーイ。

私のこの過去とこの物語は私の過ちじゃない
私のせいじゃない
そしてこれが私の未来を方向付けるわけじゃない

何度も見た、あの里親斡旋の男の人の車がやってきて、家の前に止まる。

私だって愛の価値はある
優しくしてもらう価値はある
そんな一筋の光がきっと全てを変えてくれる

頬杖をついて無表情でそれを眺めていると、男の人は後部座席に回って、ずっとずっと気にかけていた幼い弟を抱き上げる。
その姿を見て驚いた顔で走り出すゾーイ。

そして希望を与えてくれる
きっといつか
私の夏が来る


この最後のシーン、恐らく今の里親さんは弟に合わせてあげようと電話した事を伝えてなくて、だからゾーイは驚いて走り出したんだけど、里親さんがプレゼントしてくれたドレスを着ているのよね…。そこがまた泣けちゃう。
今ここでお別れになったのだとしても、トラウマを刺激されたから怒ってしまっただけでプレゼントしてくれたドレスが嫌いだったんじゃないって暗に伝えたかったのかな、それとも薄々気付いていたこの里親さんへの信頼から無意識にそうさせたのかな…。
とっても可愛いピンク色のサマードレスで、金髪の長い髪のゾーイにとてもよく似合う。

そして最初から見返すと、まだ壊れてしまう前の人形と、里親さんからプレゼントされたドレスを着たゾーイが海岸沿いに座って過去を思い出しているところからスタートしている。
ドレスを貰って、過去に実家で母親がドレスの事について義父に激昂されて怒鳴られ、多分ゾーイが止めに入ったのか庭まで逃げたけれど捕まって殴られた辺りの事を思い出しているんだと思う。
この後、見せに行こうとして電話しているのを見て…のシーンになるのかな。

このゾーイ役の子がまた、なかなか非の打ち所のないくらいの金髪グレーアイの美少女で、ルッキズムを持ち出す気はないのだけれど誰にも気にかけられない少女としては余りに美しい子供。
里子…というか日本では連れ子を虐待する内縁の夫、みたいなニュースを度々目にするけれど、自分の子以外を排除しようとする動物の本能に従っているのだとしたら人未満だし、我が子が虐待されているのを見てもなお男から離れられない母親は一体なんなんだろう、と思う。
どうにも出来ないのだとしても、どうにかする気がないにしても、何の責任もない子供が傷付くのは悲しすぎる。子供はサンドバッグじゃないのだから。
つい最近も、離婚されたくなくて妻も3人の子供も殺した父親の事件があったけれど、自分勝手に子供を殺すな。

劇中のゾーイが、過去の事は自分のせいじゃない、自分だって愛される価値があるんだって思えるようになってくれた事が本当に嬉しい。そう思わせたあの里親さんも素晴らしい人だと思う。
ふじこ

ふじこ