大学時代の1988年。熊本市立図書館で、未公開ドイツ映画の上映イベントがあり、僕は５作品を鑑賞した。学生時代って、今思うとこういう時間があったことがとても貴重。その中で観た一つが、この「67番地の子供たち」だった。ナチスドイツが勢いづく時代を背景に、政治が一般の人々の関係を歪めていく残酷な様子が描かれた心に残る好編だった。

67番地は失業者が多く住む庶民の街。そこに暮らす子供たちは徒党を組んで、縄張りに攻めてくるヒトラーユーゲントと呼ばれたナチスの少年隊たちと対立していた。主人公の少年は、ある日、ユダヤ人の少女がユーゲントの連中から襲われるのを助ける。それがきっかけで仲良くなった二人。少年の家は貧しく立ち退きを迫られていたが、少女の叔母の働きかけで危機を乗り切ることができた。貧しくとも助け合う人々の姿に温かな気持ちにさせられる。

しかし、時代は変わっていく。街には次第に鉤十字の旗が掲げられるようになり、少年と徒党を組んでいた仲間も一人また一人、ヒトラーユーゲントの少年たちと仲良くなっていく。主人公が親友と思ってきた仲間までもが、ついにヒトラーユーゲントの制服で彼の前に現れる。彼は抑えてきた気持ちを爆発させる。

労働者階級が抱いていたナチス政権に対する気持ちや、当時の生活などが生き生きと描かれる。どんな時代も子供は子供、と微笑ましく観ていた前半が嘘のような悲壮感漂う後半とのギャップ。これが実情に近い描写なんだろう。1980年代は戦時下でのドイツの様子が描かれた映画がだんだんと増えてきた時代。この映画もそうした時代の作品として、もっと知られて欲しい、と当時思った。今はなかなか観る手段がないかもしれないけど。

閑話休題。世間では好評だった「ジョジョ・ラビット」の感想で、僕は「これでいいのか？こんなもんじゃないだろう？」と疑問を記した。その気持ちの根底にあるのは、それまでに観ていたいくつかのドイツ映画。ブルーノ・ガンツがヒトラーを演じた「ヒトラー　最期の12日間」で観た悲惨なベルリンの風景。そして、若い頃観たこの「67番地の子供たち」で感じた虚しさが心にあったからに違いない。

活き活きとした子供たち。忍び寄るナチの台頭。製作意図は読み取れるが、ナチを出さなくてもよいのではないか、と思った。