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線は、僕を描くのmatchypotterのレビュー・感想・評価

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
4.2
やっぱり良かった。
観る前から予告編の時点で絶対に心が動かされる作品だと確信していたが、やっぱり動かされる。

少し前に『アキラとあきら』を観て、ようやく横浜流星の魅力に気付けて満を辞してこれ。
“陰”がある真面目な水墨画に目覚める大学生なんて彼に演じさせたらもう、、、もう。

音楽が良い。
この“水墨画”なるテーマだから、もともと静けさや繊細さがある。
だからあまりガチャガチャせず、この作品のメッセージ性を体現する師匠の三浦友和と彼に寄り添う江口洋介以外はそもそもでそんなにセリフが多くない。
それに代わって音楽がそれをよく表現してた。

そして、横浜流星の学生仲間2人をあえて“おしゃべり”担当に持ってくるほど、この“水墨画”の世界を“水墨”で描き切ることにただならぬこだわりを感じる。

監督やスタッフがあの『ちはやふる』組なので、息遣いや、所作など、どこをどう画にすると何が伝わるかという技術や表現力に申し分なし。

一瞬一瞬に魂が宿っていて、周りが見えなくなるほど没頭している瞬間、完全に気が抜けてる瞬間、前に進もうにも進めない迷いや葛藤、周りが何を言うでもなくでもそっと背中を押しているような寄り添うような優しさ。

この布陣とこのキャストが、台詞ではなく、背中で語ってるような圧倒的なパワーと世界観に包まれる。

“水墨画”、墨と筆しかない世界。
持つのは筆一本で、そこから、濃淡と線の太さ細さ、強さ弱さから繰り出す技術と“らしさ”で紡ぎ出す1つの絵画。大胆さと繊細さが調和する絵画。

この“水墨画”の特徴と、主人公が背負う自責の念、“水墨画”に携わるさまざまな人々の想いや息遣いの親和性がとても素晴らしい。

見本があって、技術が問われることもあるが、定型があるわけでもなく、自由な部分が占める割合も高いこの世界だからこそ、見失いがちな自分や“らしさ”を見つけるのに相応しい側面があることがすごく伝わってきた。

自分の気持ちや潜在的な意識がその“線”となる。
その“線”を描くのは自分であり、描いた“線”が自分である。

江口洋介がいちいち良いことを言う。本当に沁みる。グッとくる。そして、やるときはやる、カッコよすぎ。

当たり前だけどついつい忘れてしまいがちなことを思い出させてくれる。
そして、くよくよ考えてたり、半ば諦めてたことは、意外と考え方次第で前に向いたりする。

そんなことを説教じみて伝えるのではなくて、それすら筆から生まれる線のように剥き出しで、でも優しく伝えてくる。

主人公の重めの背景もあり、芸術家としての苦悩もあり、明るさだけのスポ根とも違う。
だけども、誰しもが乗り越えるべき挫折と絶望から自ら希望と再生を掴み取る強さを感じる作品。

清原果耶、凛として孤高の雰囲気を纏いつつ彼女も彼女で壁にぶち当たってる。そして、ちょっとツンデレ。
この横浜流星との悲しみや切なさ漂うコンビが良い。

強く清々しく、悲しくても前を向く大切さが沁みてくる良い作品。


F:1886
M:2870
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