アキラナウェイ

線は、僕を描くのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
4.7
原作は砥上裕將による小説。この砥上さんという方、実際に水墨画家なんだそうで。

心に傷を抱えた大学生、青山霜介(横浜流星)は初めて目にした水墨画に一目で心を奪われる。霜介は高名な水墨画家である篠田湖山(三浦友和)に声をかけられて弟子となり、やがて悲しみに染まっていた彼の世界が変わり始める—— 。

跳ねるようなピアノの音色が
瞬時に水に溶け出す墨や
大胆に動く筆の躍動感と繋がって
何とも胸を空くような心地良さが広がる。

水墨画の美しさとBGMのピアノの音色との掛け合いが映画としてのこの作品の格を一段も二段も上げている。

個人的に、"わざとらしさ"を感じる事が多くてあまり好きになれなかった横浜流星も、此度の霜介役については心の機微を繊細に演じている姿に好感が持てた。

篠田湖山の孫娘、篠田千瑛を演じる清原果耶は言わずもがな、上手い。

ドラマの中で、とある窮地を救ってくれるのが湖山会のお手伝いさん的役割の"西濱さん"と呼ばれる男性。演じるは江口洋介。やっぱカッコいいわ、エグっちゃん。

霜介の心の奥深くに根雪のように残る辛い過去の片鱗に触れた時。

妹の残した留守番電話で、号泣した。
過呼吸かと思うような泣き方をした。

水墨画に触れ、
悩み、迷い…
そこ(其処、底)から抜け出す為に
ただ必要なのは自分と向き合う事。

そして、また水墨画を楽しそうに描く霜介と千瑛の2人が爽やかだ。

大学生が主人公だからといってキラキラ輝く青春を描く訳ではない。霜介が心に闇を抱えているのでそうはならない。

霜介が千瑛から水墨画のいろはを教わるにあたり、手が触れ合ったって恋愛を描く訳ではない。霜介も千瑛も水墨画に直向きに取り組んでいるのでそうはならない。

それが良かった。
人が苦しみから這い出ていくにあたって、自分と向き合う大切さを水墨画というフィルターを通して魅せてくれた事がただ良かった。