Yuho

ザリガニの鳴くところのYuhoのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.6
舞台は1969年のノースカロライナ州。地元の裕福な青年・チェイス(ハリス・ディキンソン)の遺体が見つかった。容疑者は町の人間から「湿地の娘」と呼ばれる女性・カイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。
果たして、町の者から蔑まれる存在だったカイアは本当に罪を犯したのか?
カイアの人生を回顧しながら法廷で真実が明かされていく、ミステリー×ラブストーリー。


映画のポイント有効期限を気にしてとりあえず観に行ったので原作も前評判も全く見ておりません。観終わった後にネットやFilmarksで割と高評価ということを知りました。
万人に薦めたいほどではないけど、映画好きの人と感想を語りたくなる作品だと感じました。ラブストーリーと思って観始めたら面白いけど、ミステリーと思って観始めるとちょっと物足りない、というのが個人的なこの映画の立ち位置ですかね。作風は好きです。

最初からカイアという容疑者が居て、ホワイダニットの形で彼女の人生を見ていく構成ではあるのですが、物語が進むにつれてどんどんラブストーリーが主軸になっていく感覚は不思議なものでした。
とはいえ、ラブストーリーが進んでいく中でもミステリーの本筋の伏線っぽいものはちらほら出てくるので、そこで「これはミステリーだった」と思い直して気を引き締めなおす…という繰り返しでした。笑
なので、ゴリゴリのミステリーを想像されている方からしたらちょっと違うかもしれません。特にテイト(テイラー・ジョン・スミス)と恋仲になった後のカイアは、自身のつらい過去との対比が眩しいくらいに穏やかで活き活きとした表情をしており、ミステリーを観に来ているということを忘れていたくらいです。

そんな中でもミステリーの部分は差別などの社会問題も踏まえた、濃度の高いパートであったと感じています。
カイアは独り湿地に残された中で本当に強くたくましく育った女性だと思います。「湿地の娘」という町からの偏見の目にも臆せず、彼女の幸せと思った道・彼女の生きたいと思った人生を生きるという意志の強さは、ある種の頑固だとは思いながらも潔さを感じるものでした。
同時に得体のしれないミステリアスさを醸す部分もあり、途中は「容疑者」であるカイアの気持ちを推し量ることのできないもどかしささえ感じるのですが、最後まで観ると彼女の芯の強さに賞賛せざるを得ないなと思わされました。
なおかつ、ミステリーの主軸がきちんと失われずに描かれたという構成力はスタッフ(もしくは原作者さんでしょうか)の力量ですね。

映画を観る際、事前にレビューを色々見てからの方が見逃しも少なく、心構えもできるので、私は先にレビュー読みたい派なのですが、この作品についてはあまり何も考えずに観た方が、純粋に面白いと思える気がします。
ミステリーで頭を悩ませるというよりはヒューマンドラマ系の楽しみ方にはなると思いますが、重すぎないミステリーが好きな方にはお勧めです。
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