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ザリガニの鳴くところのakrutmのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.3
殺人容疑で逮捕された女性カイアの裁判の行方を、湿地帯の女と周囲に蔑まれながら一人で生きてきた彼女の生い立ちとともに描いた、オリヴィア・ニューマン監督のドラマ映画。原作は動物学者ディーリア・オーウェンズによる同名のベストセラー小説であり、日本語訳は2021年本屋大賞の翻訳小説部門の1位となった。小説は未読。

映画のあらすじを読んで、小さい頃から教育も受けずに一人で生きてきた野生児のような女性の視点から、殺人事件の裁判を絡ませながら、世俗にまみれた人々の醜悪さを描いているのだと思っていたけれど、映画の内容は全然違っていて、基本的にメロドラマを絡ませたミステリーだった。小説はおそらく悲惨な境遇にあったカイアの心情をじっくりと描いていて、それが誰が犯人かというミステリーと上手く融合しているのだと思うが、映画ではカイアの心情をほとんど描いていない/描けないので、男性との恋愛を表面的に描くだけの安っぽい昼メロ風な作品に堕してしまっている。

個人的に感情移入できなくなった最も大きな原因は、カイアが一人だけ取り残された合理的な必要性が全くない点にある。父親のDVを受けた母親が子どもたちを捨てて家を出ていくのは理解できる。しかし、その後、子どもたちもみんな家を出ていくのだが、湿地帯に残りたいという意思をカイアが示すわけでもないのに、誰一人としてカイアを連れて逃げようとしないのは全くもって解せない。カイアのことを一番気にかけていた兄ジョディでさえ、「一緒に行こう」と一言も言わないのである。何だよ、それ!結局、ストーリーのために無理やりストーリーを作っているようにしか見えないのである。

さらに悪いのは、湿地帯に生息する動物たちの観察を通じて彼女が動物の行動原理の知識を得てきたということが、謎解きにとても重要な部分を占めるのにも関わらず、それをきちんと描かなかった点。編集者たちとの会話の中で取ってつけたように述べるだけになっているのは、あまりにもお粗末過ぎ。これでは、動植物の絵を書くのが得意というくらいにしか見えない。

これらの理由から甚だ残念な映画に仕上がってしまったのは、カイアを演じたデイジー・エドガー=ジョーンズの演技は悪くなかっただけに、甚だ残念である。
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