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ロストケアのFAZのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
4.5
立場や状況や環境で、正義の捉え方なんて千差万別なんだと思い知らされる。
介護士として働きながら42人を殺し斯波。彼は殺したのではなく42人を救ったと言った。
今のロシアとウクライナもそうだ。ロシア側は正義だと言っている。改めて正義なんて人が作ったものさしで、こんなにも虚ろいやすいものなんだなと思い知らされた。

私が見て思ったのは、確かに彼に救われた人もいただろう。でもこの殺された42人が全員救われたのかはわからない。なんで赤の他人なんかに頼んでもいない命の終わりを決められなきゃならないんだと思う人も絶対いる。
私の正義の定義からしたら、最初の殺人以外は全てただの自己判断による殺人だ。でもそれも私が穴の底に落ちたことがない、安全地帯から綺麗事を言う人間だから思うのかも知れない。

「人が人を殺すのは悪で、国が人を殺すのは正義なのか」
「人は見れるものと見れないものがあるのではなく、見たいものと見たくないものがあるのかもしれない」

印象的な、真理をつくような言葉が本作ではたくさん出てきて、その度に心臓をギュッと掴まれたような気持ちになる。自分がいかに幸せな場所にいるかも思い知らされる。

少子高齢化の日本は、今以上に介護の負担で生活や心を破滅させる問題が次々と現れてくるに違いない。
国が国民ひとりひとりを気にかけて面倒を見ることは難しいとは思うので、私自身どんな制度やサポートがあるのか、それを受けるにはどうしたらいいのか、自分から情報を取りに行くこともすごく大事だと思った。

私は鑑賞後特に後味の悪さも、ズーンと気分が沈むことはなかったけど、それは最後のふたりの対峙のやりとりがあったからかも。
斯波はずっと救われたかったんだな。

それにしても役者さんの演技合戦がもうハイレベルすぎて、演技でここまで表現できるの?と驚いた。
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