佳

ロストケアの佳のネタバレレビュー・内容・結末

ロストケア(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

「親の介護における嘱託殺人」というテーマで、現在当事者でなくても、誰しもがいつか当事者になる可能性が大いにあるからこそ、誰しもが押し黙ってしまうような映画なのだと思った。未来が身につまされている。
描写も、長々と語られるのではなく、その様子をただワンシーン淡々と見せるだけの手法が目立ち、説明不要な現実が突きつけられていた。

終わり方も良かった。これも長々あからさまな御涙頂戴をやるのではなくて、本当に起きているただ現実のワンシーンを描くのみにとどめている。
ラストシーン以外では、検事が自分の母親のいる老人ホームに行って、頭を撫でられるシーンがそうだった。言葉はいらず、ただ行動のみで、人がどんな気持ちになるか説明せずとも伝える手法がとても美しかった。
不要なものを全てなくし、研ぎ澄まされたような冷たさと静謐さと鋭さがあった。

セリフが良かった。
「絆は呪縛である」。これを感じている人がどれだけいることだろう。

犯人が割と早い段階で判明して、すぐにやったことを認めて、「殺しではなく救い」という言葉が出るのが思ったより早いなと思った。それはこの話が犯人探しを目的としたものではなくその動機に重きを置いているからで、重要なのは犯人と検事のプライベートだった。
また、検事の父親の話が観客にバラされるタイミングは逆に遅かった。冒頭シーンでインパクトの強い映像だけ見せて、そのあとは一才触れず、検事の母が父の話をする時にもその事実は伏せられていて、あとからバラす手法だった。だからこそそれまでの検事の気持ちや涙の理由がわかるクライマックスがクライマックスらしくなっていて、その時点で犯人と検事が通じ合い、完全なる山場となっていた。
山場がラストシーンという構成も良かった。

重たくて、何度も見られる作品ではないと思ったけれど、精神的にも技術的にも見るべき作品だと思った。
今日は母の日。
佳