このレビューはネタバレを含みます
認知症の老人を殺すことは本人にとっても家族にとっても「救い」であると言い放つ、松山ケンイチ演じる連続殺人犯・斯波。
斯波は、世間的に言ってはいけないセリフを言いまくるが、介護現場の描写とあいまって彼の主張は危険なほどの説得力を帯びる。相対する女検事の主張が薄っぺらいキレイゴトにしか聞こえないのだ、本当に。
斯波の主張を賛美するような映画にしたら世間的にマズい、と制作側が判断したのか(?)。
「父さんを返せ、この人殺し」と絶叫する被害者遺族。「お互いに迷惑をかけ合いましょうよ。誰も人に迷惑をかけないで生きていけないのだから」と微笑む被害者遺族。女検事の頭を撫でてくれる認知症初期の母親……などなど、とってつけたような場面が連投される。あまりに「とってつけた」感が強いので心にまったく響かない。
きわめつけは、折り鶴の内側に(認知症で理性を失っていたはずの)斯波の父親からのメッセージが書かれていた、という場面だ。
正直、見ていて冷めた。折り紙に手紙を書いてから鶴に折るなんて。誰がわざわざそんなことするんだよ、ありえねぇだろ。このお涙頂戴な場面が映画を台無しにしてしまった。
ここまでベタベタに砂糖を入れなきゃ飲めないのなら初めからコーヒーなんか注文するなよ、みたいな。
かつて「俺を殺してくれ。まだおまえのことを覚えているうちに、人として死なせてくれ」
と懇願した父親から、「どちら様ですか」と尋ねられた日。斯波は父親を手にかけ、慟哭する。その場面だけが深く深く心に残った。