Ren

長ぐつをはいたネコと9つの命のRenのレビュー・感想・評価

5.0
オールタイムベスト級のアニメーション映画。前作とは異次元の超絶大傑作。映像的快楽と物語的快楽をたかが100分の映画にここまで詰め込めるのかという興奮と感動。もう今年の1位はこれでいいです。

前作の知識とかマジで要らないので、予習の有無で悩んでるくらいならすぐ観に行ってください。前作が微妙だからこれもスルーでいいやという人、少しでも気になったのならぜひ観に行ってください。以上。

エポックメイキングな『~ スパイダーバース』に始まり同社の『バッドガイズ』など2D風3D表現の時代を経て、今作は「基本は高解像度な3Dアニメだが、ハイスピードアクションが始まった瞬間にフレームレートを落とす」という新境地へ進んだ。ドリームワークスのアニメ快楽の追求は永遠に終わらないだろう。

ドリームワークスお馴染みの物理法則ガン無視アニマルアクションが誇張無しに100分続く。少し湿っぽい展開や会話主体のシーンでも「カット数を増やす」「カメラを動かす」「すぐにアクションに戻る」とあの手この手でスピード感を持続させる。クールダウンになるギリギリの時間を見極めつつ、テンションを維持する神ワザのオンパレード。

情報量は多い。プス一行を追う者を追う者を追う者、と4陣営が同時並行で存在する詰め込みすぎなロードムービーだが、絶対に難解にはならない。
「プスが9つある命のうち8個を無駄遣いしたのでこれが最後の命である」「願いを叶える星を見つける」という超明快な設定と軸があり、さらに前作とは違い「冒険自体が常に追う/追われる関係にありトラブルも多発する」スリルが我々をどんどん前のめりにしていく。

プスを今スクリーンに蘇らせるべきだった理由は映像快楽だけでなく、問題提起面からしてもちゃんとある。
まず第一に「滅ぶべき男性性」へのアンサー。剣を片手に強さを誇示しレジェンドであることをアイデンティティとして生きる彼はかっこいい一方で前時代的だが、そんな彼を「仲間・友情と共に」「攻撃的でない」解決に導いた。
その過程で繰り返されるトラウマ・フラッシュバック描写はとてもしんどい。でも自身の弱さに漬け込まれる恐怖と、助けを求めることは弱さではないことを伝えるためには絶対に必要だったと思える。
新キャラのワンコは、問題を優しさと友情(の押し売り?)で乗り越えるカインドネスに溢れたキャラクターであり、プスとの対比となっているのが誰にも分かりやすかった。彼は「エブエブ」でキー・ホイ・クァンが演じたウェイモンドとも重なる。

第二に「家族の在り方」を改めて問うている。親族のいない一匹狼のプス。家族とは血縁のことなのだろうか?という問いに、彼らと、前述した4陣営のうちのある1陣営が答えていく。血縁ではなく、一緒にいたいと望んだ人のことを家族と呼びたい、という家族観だ。複数の是枝裕和作品にも通ずるし、数年前ピクサーの『アーロと少年』が叶えられなかったアンサーでもあると思った。

それらに目配せしながら、最終的に物語は死を経由した「生」に帰着する。寄り道をしながらもラストは、今を生きるんだ!と高らかに謳う。生命力に溢れたアニメーション表現だからこそあまりにも説得力がある。

キャラクターも漏れなく愛おしい。
さすがに掘り下げきれていなかった部分は多かった(それほど要素が多い)けど、全員が自身の役割を全うしていて良かった。特に今作のラスボス的なウルフは、威圧感と風格が100点満点で最高であった。

語っても語り足りない。早くみんなに観てほしい。超絶大傑作だ。

その他、
○ 前作よりコミック的なガチャガチャした演出を激増させてフィクションラインをルックからさらに下げたことにより、トンチキな世界観への説得力を上げていた。
○ 強さ(≒男性性)を武器に生きる一匹狼の交流と変化は『カーズ』『モアナと伝説の海』っぽい。点在する要素が絡み合いながら布石を回収し一点に収束する展開は『シュガー・ラッシュ』っぽい。ケモナー大歓喜もふもふアクションは『ズートピア』っぽい。自分が大好きなディズニー/ピクサーの要素が沢山あった!あと少なくとも『メリダとおそろしの森』は意識してるはず。
○ 優しさを体現していくワンコと、耳元で正論を言って聞かせるだけのコオロギ(『シュレック』にはピノキオも出てくるしその繋がりですね)の、メンターとしての対比。メンター自身が大きな行動に出る瞬間にカタルシスが訪れる。
○ そういえばこのシリーズは『シュレック』のスピンオフだった!と唐突に思い出すラスト。
○ エンディングのKAROL Gの『La Vida Es Una』良すぎる。
○ 家族に見放された孤独なマイノリティの子が、聖人君子で、ポジティブで、みんなを導くメンター的な立ち位置なのは、それは描き方としていいのか?とは少しだけ思った。少し怖い価値観な気がする。

【余談】自分はアニメは吹替派なので吹替で観たけど、字幕派の人のことをもっと考慮した上映スケジュールにしてほしい。シネコンでガンガンかかるような大手スタジオ作品は特に。
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