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少年の君のRenのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.5
超絶大傑作。凄すぎる。『白夜行』や『容疑者Xの献身』の系譜に連なる東野圭吾の長編小説を岩井俊二が映像化したような驚きと興奮と感動に飲み込まれる135分。

いじめの連鎖が絶えない世の中に語る映画として堂々たる出来栄えで、歴史的名作の風格を十二分に感じた。冒頭からラストまで「いじめ(という名の犯罪)が存在する世界に生きるとは」という極太の背骨を通し、学校、受験=学歴社会、貧富、親子、青春、サスペンスを縦横無尽に行き来する。重なったジャンルの数だけ、疎外されて生きる2人の存在が鮮烈に浮かび上がる。

重たいが重たいだけに収まらず、演出の巧みさも随所に光っている。映像美も去ることながら、意外なカメラワークや小気味良いカットバック、音の演出のおかげで「今 目の前の映画を楽しむ」という瞬間的な興奮が積み上がりラストまで飽きさせない。リアルである一方でとてもフィクションのシズル感を大切にしていて推せる。
時系列を組み替える演出は、単にミステリの意外性だけでなく、「後から事実を知る」ことで自分たちが部外者のような当事者であること気付かされる。

痣や切り傷などの生傷はとてもリアルに作り込まれている一方で、センセーショナルな死の描写や性描写はほぼ隠されているのも良い。R指定ポルノとしての消費を避ける誠実さがある。が、彼らの心身の痛みは肌感覚として分かる。

警察=権力側の大人が、実はとても誠実にいじめ当事者に寄り添おうとし続けることも素晴らしい。極悪人でも聖人でもない。
白か黒でキッパリ分けられるキャラクターはほぼいなくともフィクションとしての面白さは担保されている。脚本も演出もばっちりハマっていた。

「君は世界を守れ、俺は君を守る」という完全無欠の名台詞があるシーンで飛び出すが、この台詞こそが今作を虐げられた2人の悲しく辛く切ないセカイ系青春映画に閉じ込めないパワーの源となっている。
本当のラストカットで、この台詞が明確に映像化されたようなカタルシスがあった。いじめが根絶されず連鎖する世界で手を差し伸べる人間と、世界がそうであるためにそんな人間を守る人間。単に恋愛や青春でパッケージするのではない、いじめのある社会へのエンディングとして素晴らしかった。

一本の創作として斬新な新規性は実はそこまで無い。ぼんやりとした既視感は常にある。それでも、役者の演技と手練手管を尽くした演出、何より社会へ真剣に語りかける姿勢を全力で体現すれば大名作になる。過去の名作群を吸収し出来上がった王道で普遍の名作は、絶対に後継の名作を作る種になるだろう。
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