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レイモンド&レイのhasisiのレビュー・感想・評価

レイモンド&レイ(2022年製作の映画)
3.6
米国のどこか。雨が降る夜更け。
レイモンドは、人里離れた場所に暮らす兄弟、レイの家を訪ねた。
2人の父、ベンが亡くなり、葬式に出席してほしい旨を伝える。
虐待によって疎遠になっていた父の願いを叶えるべく。兄弟は車でバージニア州、リッチモンドの郊外へと向かうのだった。

監督・脚本は、ロドリゴ・ガルシア。
2022年にApple TV+で公開されたドラメディ映画です。

【主な登場人物】👬🪦
[ヴィンセント]茶シャツ。
[ウエスト]牧師。
[カンフィールド]葬儀屋。
[キーラ]編み込み。看護師。
[サイモン]男の子。
[ベン・ハリス]父。故人。
[メンデス]弁護士。
[レイ]やんちゃ。
[レイモンド]堅実。
[レオン]青シャツ。
[ルシア]父をよく知る女性。
[ローズ]受付嬢。

【感想】🚗🏪
ガルシア監督は、1959年生まれ。コロンビア出身の男性。
『百年の孤独』のガブリエル・ガルシア=マルケスの息子です。
99年まで撮影として働き、2000年から監督に。長編は10作目。
ジャンルが多岐に渡るので、一言で表しにくい。ロマンスとドラマ。過酷なものが多いです。

堅物の役は、SWでオビ=ワン・ケノービだったユアン・マクレガー。
やんちゃな兄弟で『ムーンナイト』や『ブラック・フォン』などの悪役、みんな大好きイーサン・ホークが出演しています。
このいぶし銀の2人が常に画面に映っているので絵が豪華です。

※どちらが兄か分からないよう、劇中では曖昧にしてあります。

🥄〈序盤〉🛌🏼⚰️
👦🏻兄弟。
兄と弟が父親の葬式に向かう。
兄弟もののレビューは1年ぶりで近年だと珍しい方。
堅実と不良に分裂した監督の独り言も、無理がなくて自然。と言うより、演出の力なのか、本当の兄弟が会話しているよう。
話も自然と子供時代に戻ったかのような幼い内容になって現実味がある。

父の思い出話をしているようで、自分の話をしているような。トラウマと向かい合っているのだが、自己反省のようでもある。
長年温めた企画だけあって、会話に厚みがある。父への思いと、兄弟の思い出が詰まっている。

❤️‍🩹虐待。
監督が父親との関係を映画にするとなれば、大抵はこれ。楽しく語れる人なんて、スピルバーグくらいのものだ。
古い時代の思い出なので内容が強烈。
それにしても、過去にさかのぼるほど、むちゃくちゃな親ばかり出てくる。今はずいぶん穏やかな時代になったなぁ、とつくづく。
(折檻はタブーになったが、ニュースに出るような過度な地獄があるから、二極化しているのか)

💊ポスターが表すもの。
スコップを持った不満そうな兄弟の表情が興味をそそる。
見た目はドラマだけど、中身はデッドパンのようなコメディ寄り。
ちゃめっけのある父で、亡くなっているのにネタが豊富。楽しませるために色々準備してくれている。
兄弟が笑いをこらえる役。

疎遠になっていた父を知る過程はミステリーのようでもあり、冒険のようでもある。好奇心を刺激する懐かしい題材だ。
10才ほど年上の先輩が作る映画がストライクゾーンに近いのは、わたしの場合はよくある話。

🥄〈中盤〉🤸🏼🤸🏼‍♂️
🍲交友関係。
リアリティが感じられない。自分を美化したナルシズムと相まって、妄想を語られているような感覚におちいる。
急に甘ったるくなって失速。

その一方で、シビアな出来事を挟んで甘さを中和してくれるので助かる。
それに“父の置き土産”と考えれば悪くはないのか。
(いや、むしろいい)

離婚と再婚によって拡大する親戚。同じような境遇の人は身近にいるが、当事者として味わったことのない関係性や心境なので刺激になる。

🥄〈終盤〉🔫🎺
🕳️緊張と緩和。
憎しみの噴出と、別れの挨拶で泣き笑い。
感覚的でユーモアのある人が真剣に親と向かい合った結果。
(なんだこれ)
独創的でメッセージ性もある、早めに訪れるいい山場。
2人の演技力に圧倒されて忘れられない光景に。

📦結構つらい。
置き土産と、隠し事で精神をぐちゃぐちゃにしてくる。
色々な考えが頭を巡った。
他人の人生を垣間見られるから映画は面白い。
これから先、一体何人の人生を知ることになるのやら。

その後の兄弟の姿の描き方が客観的で突き放される。
最後の父の痕跡で、晴れやかな気持ちになれて、身内が大切に思える鑑賞後感に。
感情のゆさぶりが連続して、のんびりしているのに気持ちが忙しかった。

【映画を振り返って】🏡📧
評価は低かったが、ポスターに惹かれて。レビューしないつもりで突入したのだが、面白かった。

珍しければ、何でも興味をしめす雑食なので、低評価の映画も見た方がいいのかもしれない。
とくに過去作で実力を評価されているような人であれば、何かしら琴線に触れそう。知り合いが勧めていた物でも掘ってみようと思う。

🖼️帰郷。
兄弟で父の晩年をたどってゆく。
本当は、お前たちのことを愛していた、のような言い訳じみた作りになっていないので、自然に見られる。
あるがまま。最悪な父の面影を知れば、どこにでもいる普通の人間だったと理解できる。

ガボの息子が撮った映画だと知ってから見返すと、違って見えてくるから不思議。
ノーベル文学賞をとったコロンビアの神様をぼろクソに叩いていて、草生える。
おとぎの国のイメージがずいぶん現実味をおびて、わたしの祖父の世代の成功者のよくある姿と重なるように。

情報を得た2周目で気づいた父の秘密があって、イーサン・ホークの表情の変化で目頭が熱くなった。

監督は長男。彼の後も映画のように次男が生まれている。
その後は劇中で語られるが、実際に起きた出来事と、父親が抱いていた幻想が溶け合っていた。

考えてみれば、夢の甘さと現実の辛さが交互に訪れるなんて、父親によく似た作風。
拒絶するほど憎んでいても、親子はおやこなのだと思い知らされる。
と言うよりは、本作の場合は尊敬の気持ちをこめて意図的に似せているのだろう。
憎しみも含めて父を受け入れている。
年月を重ねた人が撮れる深みのある映画だった。
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