hasisi

地球は優しいウソでまわってるのhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

監督・脚本は、ニコール・ホロフセナー。
2023年に公開されたドラメディ映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️

【主な登場人物】🗽🛳️
[アリソン]息子の彼女。
[ヴィンス]別のエージェント。
[エリオット]息子。
[キャロリン]患者・夫人。
[サラ]妹。
[ジム]患者・ぽっちゃり。
[ジョナサン]患者・旦那。
[シルヴィア]エージェント。
[ドン]夫。セラピスト。
[ベス]主人公。
[マーク]妹の夫。

【概要からアラスジへ】🏫🛋️
配給会社はA24 。

ホロフセナー監督は、1960年生まれ。ニューヨーク出身の女性。
ユダヤ人。
継父が映画プロデューサーで、8才でハリウッドに引っ越している。
1996年に長編デビューして7本目。

写実的で、中流階級の日常を扱ったものが多い。
自分の分身を主人公に、典型的なプロット構造から逸脱した独自のスタイル。
スケッチに近い。

📝〈序盤〉🏬🧦
米国。北東部、中部大西洋岸にある国内最大都市、ニューヨーク。
私設心理相談室。
ドンは中年の冴えないセラピスト。最近は元気がないと患者に指摘されるものだから老いを意識し、目元の皺を気にしている。
ソファーに座った中年夫婦の相談にのる。
・キャロリンはヒステリックな夫人。「夫が顔を見て話さない」
・ジョナサンは主導権を取らせたくない頑固な夫。「俺を指さすな」
「相手を侮辱せずに正直に気持ちを伝えるのはどう?」
「……ここに長く通っているけど、何も改善されない」

ニュースクール大学。
妻のベスは作家で、クリエイティブ・ライティングの教師。
回顧録を書きたい生徒たちのアイデアの魅力を具体的に解説し、価値があると褒めるライフコーチのような人。
夫婦には23才の息子、エリオットがいて。大麻ショップを経営する劇作家志望だが、ベスは読まないうちから「面白いに決まってる」と勇気づける。

夫婦は仲がよく、レストランで結婚記念日を祝う。ドンからは葉っぱのデザインの金のイヤリング。
「なんて素敵なの。さすが私をよく理解している」
ベスからはVネックのセーターがプレンゼントされた。「いい手触りでしょ?」
ベスの新作小説はエージェントのシルヴィアからOKが出ずに苦しんでいるが、何度も読んでいるドンは「最高の出来だよ、自信を持って」と励ました。

ベスの妹サラの旦那、マークは売れない役者。ドンと街を散歩しながら新しい役がもらえて興奮している。
マークの趣味である靴下ショッピングに付き合っている。
別行動していた姉妹は、買い物している男2人を驚かそうと背後からこっそり近づき、会話が聞こえる距離へ。
「少しでも意見したら彼女は落ち込むんだ。いつもは面白いけど、新作はどうもね。フィクションだけど、ミステリー? なのかな。僕にはよく理解できないんだ」
「それをひと言伝えれば?」
「もう手遅れだよ。もっと早い時期に話せばよかった」
「そんなに面白くないの?」
「僕にはね」

夫の本音にショックを受けたベスは話しかけないままその場を立ち去った。
喉奥から吐き気が込み上げるが、妹は「本が何よ」と的外れ。
2年を費やした新作であり、夫は読ませるたびに「面白い」と励ましてくれた。
……以前から影では笑っていたのかもしれない。
私は誰よりも彼に認めて欲しかったのに。

📝〈中盤〉🍷🥗
ベスがソファーで寝るものだからドンは、仕事が上手くいかなくて落ち込んでいるのかも、と心配している。
「シルヴィアは理解していないんだ。別のエージェントに原稿を送りなよ」
「気に入っている振りをするのはやめて」

ベスは授業中に生徒の辛い思い出を聞き、自然と自分が出版した回顧録の話題に。だが、誰も読んでいなくて、なぜ彼らが私の授業を取っているのか理解できない。
「そうだ。先日、面白い回顧録を読んだよ」
タイトルを聞くと、別の生徒も「あれ面白かったよね」とつぎつぎ同調する。
「先生のも読むからね」「同じく」みんな笑顔で本のタイトルをメモしていた。

夕食に妹夫婦を呼んでマークの誕生会。
けど、マークは舞台の役を下ろされて貧乏ゆすりが止まらない。
ベスが「作家をやめようかしら」と愚痴ると、ドンはいつものように励ましてくれる。
「いいのよ、別に無理して励ましてくれなくても。だって、面倒でしょ?」
苛立ちが伝染して口論になるから、靴下売り場で偶然立ち聞きした経緯を白状。悲しくてじっとしていられなくて外へ。

ドンは追いかけてきて、僕の意見なんて役に立たないし、君を落胆させたくなかった、と弁解。さらに、
「好きでも嫌いでも、君を応援したかったんだ」
「私にとって作品は大切なものなの。貴方の意見を尊重してきたのよ!」

📝〈終盤〉🛏️📄
夜の自宅。
夫婦はソファーに離れて座り、彼女と別れたばかりの息子エリオットの愚痴を聞く。
完成しない戯曲に、子供の頃に通っていたスイミングスクールの中級ステージ。実力もないのに、お母さんから過大評価されて辛かった。
「勉強も水泳も苦手だったのに、周囲より優れていると勘違いして大人になった」
僕よりお互いを愛しているから、いつも邪魔者のように感じていた。

息子が部屋に戻った後、夫婦は「互いの間で嘘をついたことがないか?」の話題に。
たとえば、でベスはラックにずらっと並んだ葉っぱのイヤリングを提示。
一度「欲しい」と言った性で、何度も同じデザインのイヤリングばかりをプレゼントされた、と嬉しい振りをしていたのを白状した。
喜んでいると思っていたドンは驚愕。

対抗するようにドンも「Vネックのセーターが嫌いだ」と白状した。見せる胸元もないのに恥ずかしい。
笑い話の流れで「いい医者と褒められるのも辛い」と告白。
「やぶ医者かもね」
「そうだな」とドンは自嘲気味に笑った。

1年の月日が経過。
ベスが別のエージェントに話を持ち掛けると、小説を気に入ってくれて無事に出版に。
レストランでの結婚記念日はエリオットも呼んで3人で。
プレゼント交換は、ドンから葉っぱのイヤリングで、ベスからはVネックのセーター。お互いにリサイクルするネタが被って爆笑。

ベスは息子と、マークの舞台を観に行った帰り道に、「やっと完成したよ」と戯曲を渡された。
「読むのが楽しみ♪」
親子はカップルのように腕を組んで家路をたどる。逞しく育った息子が誇らしかった。

自宅で留守番していたドンは、以前から考えていた目元の皺を取る美容整形。ダウンタイムでパンダのような顔に。
何はともあれ、手術が無事に終わって一安心。夫婦は強く抱きしめ合って喜んだ。
2人でベッドに入り、息子の戯曲の第一稿に目を通す。夫婦の距離は以前のように近くに戻っていた。


【映画を振り返って】🏫🛋️
期待や褒めはプレッシャー。批判と同じように相手を苦しめる。

夫婦喧嘩。
日々の生活の中で淡々と。劇的な展開はなく、普段とあまり変わらない日常が過ぎてゆく。
夫婦生活を振り返り、印象的な場面を思い出すように。

本音と建前があり、時々本音が零れでる人から見えている世界。
授業でパワハラしないように生徒を気遣い、意見をちゃんと褒めるとか。
毎週通わされて薬を処方されるだけのセラピストなど、現代を皮肉っている。
嫌味を言っているだけの人だと魅力を感じないが。
邦題通り、ちゃんと優しさと愛で出来ているから安心して楽しめる作り。

原題を直訳すると「貴方は私の心を傷つける」
邦題の『地球は優しいウソでまわってる』からは、自分から見えている景色が、世界のことわり、のような気持ち悪さがただよっているけど、偶然なのか、過干渉を当然のように描いてある本編と噛み合っている。

🚪干渉的で神経質。
ちゃんと話を聞いてないと、何が面白いのか、何が監督の興味をそそるのか理解できないほどネタが細かい。
陰気な年寄りが他人をネタにずっと愚痴っている。

作家ベスの前作は回顧録で、父の暴言について書いたもの。何度か暴力と比較されて「しょせん言葉でしょ」と卑下される。
日本では、DV防止法改正案の接近禁止命令に、精神的DVが含まれる改正が衆院内閣委員会で可決。
実効性の難しさや、言葉尻を捕らえて様々な問題が生じるだろうけど。
とりあえず、貴重な一歩。
家の中だったら何やっても許される。バレないと勘違いしている人達が、
「言葉で相手を傷つけていたかも」と自覚してくれるだけでも抑止効果は期待できる。

👂🏻夫婦の間で隠している本音。
ずっとドアの向こうから聞き耳を立てている人の視点なのに、
「驚かせようと思ったら、偶然彼の本音が耳に入ってしまった」
なんて、都合のいい場面。
セラピストに皮肉を言いながら、自分の癖には蓋をしてツッコミとボケが混在している。

アラスジではばっさりカットしているが、
ぼんやりした小ネタ集が、前振りとして効いているので、
旦那の「面白くないと思っていたが、言えなかった」が、ぶっ刺さった。
1幕に用意された落ちのショックで吐きそう。
全幅の信頼を置いていた人の本音。創作する人であれば共感できるだろう。

🤒不安定の感染。
自分の機嫌が悪いと、周りの機嫌もつられて悪くなる。どちらも体調を崩す、のように同じような不運が重なる場合がある。

ドンが機嫌を直してもらおうと、説得しただけで、
ベスは「あやつるつもり?」
と臨戦態勢。
影響を受けやすい。コントロールされやすい人の発想。
どれも、他人の話を真剣に聞いてしまうからこその症状。

子供の教育の話もそう。従順で協調性が高い人の悩み。
師匠が的外れなせいで、苦しんだと愚痴。
教えを突っぱねて、自分で考えて行動するのが苦手だから、親ガチャが直撃する。
メディアを通して、優れたコーチと従順な選手の成功例ばかり見せられると、余計に辛くなるだろう。

🎁プレゼント。
プレゼント魔、は基本的にマイペースな人の方が合っている。
相手の反応気にしない。あげた額を覚えていない。
対照的に、本当は気にしているのに、気にしていない振りして強がっている人もいる。
わたしは大抵、いかに必要ないか、をくどくど説明されると気分を害するので得意ではない。

もらう場合は、喜ぶと同じものばかりをくれるの、あるある。
だから、過剰に反応しない。好きなものを決めないのが大事。
曖昧にして定義しなければ、「これをあげておけば喜ぶ」の脳死を回避できる。
(……なんて、贅沢な悩みなんだ)

🥼罪悪感。
心の病を治すには、患者の協力が不可欠。
セッションに通っているのに治らない、とセラピストを責めるのは簡単だけど。
辛いのは治してあげられない側も同じ。
苦しんでいる人を助けたい、と思って職についたのに、完治させられないのだから心を病む。

セラピーの根本に触れていない。
・猛烈にお喋りで、聞き役を必要としている。喋るとすっきりする人。
・進む方向を決めるのが苦手で、先導者を必要としている人。
・自分を知るために、第三者から説明を受けたい人。
のように、実際は需要と供給が合っているのだが。
本質には触れず、保留状態のまま描かれてある。

ただ、無理して答えを出さないで、そのまま描くのも有り。
起伏に乏しく、答えも導き出せない場合は、その分、作り手との距離感が近くなるので、それはそれでいい面もある。

🏡裕福な家庭の穏やかな物語。
変に苦労話にしていない。
ドラマ性が高くないと物語がつくれない、の固定観念を払拭するのにも貢献している。
「サザエさん」も「ちびまる子ちゃん」も一般家庭で、苦労話とは縁遠い。
YouTubeのセンセーショナルなサムネとは別世界。

物語を大げさにせずに共感を重視するのも方法論の1つ。
豊かな家庭の寂しさだけでなく、幸せでもいい。
ありのまま。
余裕のある年長者が手本を示してくれるのはありがたい。
hasisi

hasisi