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コンクリート・ユートピアのhasisiのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
3.6
韓国の首都、ソウル。
謎の大災害により、一夜にして地球全体が壊滅した世界。
地盤が波打つように隆起して、都市が焦土と化した中。唯一残された建物がファングンアパートだった。
居住者は団結し、食料の調達に紛争する。
周辺から集まってくる難民を追い払い、探索隊を率いるリーダーが必要とされていた。
そんな中で選ばれたのは、自らの命をかえりみず、消火活動を率先して行った中年男性、ヨンタクだった。

監督は、オム・テファ。
脚本は監督と、イ・シンジ。
2023年に公開された災害スリラー映画です。

【主な登場人物】⚪⚫
[グメ]婦人会会長。
[ドギュン]反対派。
[へウォン]帰還者。
[ミョンファ]看護師。
[ミンソン]公務員。
[ヨンタク]902号室の住人。

【概要から感想へ】🧯🚽
テファ監督は、おそらく1981年生まれ。韓国出身の男性。
2013年に長編デビューで、3作目だが。
2004年から業界で働き、助監督歴は長い。長編の間にも4作品に参加しているので、現場経験は充分。

社会問題に、民話や神話のようなものを混ぜるスタイル。

製作費、約24億円。2023年の韓国の国内興行収入5位。
評判もよく、安心して楽しめる期待の超大作のはずだが。

🏢〈序盤〉🍑🪳
荒れ地にそびえ立つアパート。
わたしは『AKIRA』世代なので、好きな人と廃墟で冒険する妄想をよくするのだが、それが実写映像化されていて、うっとり。
廃墟であればロケハンでいい場所が見つかりそうなので、意外と経費をかけずに撮影できる題材なのかも。

通常は、災害を描いて戸惑う人々からはじめるのだが、目覚めると世界が荒廃していて、と定番の説明部分をはしょってある。
テンポは速くなるが、弊害としてツカミに必要な躍動感が消失する。

若い夫婦に、訳ありリーダー。住人も大勢で群像劇。
冷静に考えて、食料も少ないのに現代のようには生きられないと思うが、みんな溌剌としている。
能登半島を思うと心苦しいが、韓国の役者の熱量には元気がもらえる。

気合の入ったポスターでかまえればコメディ。「現代人がディストピアに連れてこられたら?」のようなギャップでギャグが生まれる。
無政府状態でアパート内のルールが機能している時点で察し。

🏢〈中盤〉🔦🍜
ドラマに切り替わって周辺探索。
普通は複数の組織を他面的に描くものだが、
一致団結した大所帯なので動きがゆっくりしている。
混沌の中で何故か秩序だって生活しているので、独特な世界が構築されている。

カルト化と教祖。
人の業を描くための暴力的な鬱展開が重ねてある。
ずっと「正しく生きろ」と説教されている気分。
協同組合のいざこざが終わらない。

くすんだ画面でアパート限定なので、キャライベが視覚的に認識しにくい。
集団行動もあり、
みんなのために我慢しているのだが、やがて不満が爆発する、の一辺倒に感じられた。

🏢〈終盤〉💥🔫
建物探索。
2ライン同時進行で盛り上がる。
ここまでの溜めが長かった。

崩壊。
評判のいい映画は3幕が面白い法則。
韓国人のけたたましさも場面にぴったり合っていて心地いい。
物語も綺麗に円環してうっとり。
たまには古典的な内容も悪くない。

【映画を振り返って】⛪🌥️
聖書のモチーフと社会主義。
隠されている名前と、その人物の役割。扉に塗られる赤いペンキの意味など、いたるところに聖書からの引用がみられる。
私利私欲に走る現代人を皮肉るための空想実験の色が濃く、リアリティは無視してある。

当初は想像していたものと違い「なんだ、この映画」とは思ったけど、
慣れれば何とか。
1幕コメディ、2幕ドラマ、3幕アクションで最近の見飽きないための形式も採用されている。

🎤罪業妄想。
罪を犯している妄想に支配される症状。
鬱病の1つだとか。
正直、ディストピアのように人の命が軽んじられる世界とは相性が悪いけど、実感がこもっていて、伝わるものがある。
クラシックなテーマではあるけど、無いよりはまし。

リーダー論に絡めてあって中々。
監督にとっては映画製作と直結しているので、感情移入もしやすいだろう。
ストレス発散にもなるだろうし。
人は身近なものを武器にして戦うしかないので、真似しやすいかも。

🏯アパート。
最近の黙示録映画、4作品は「世界が終わる」と落ちがつくのだが、
本作の場合は、崩壊が収まった状態からはじまる。
ファンは先が見たいので、題材自体はありがたい。

空に伸びる建物が、聖書に登場する「あの国」のメタファーで、壁で難民の侵入を防いでいる、と考えればそのまま。
北と南に別れた半島でも現在進行形。地続きの問題だ。
日本でも、集合住宅で暮らす人であれば、自分たちの城を守る彼らの姿は、臨場感たっぷりに楽しめるだろう。

無政府でも組合に属して秩序を保つなんて、日本でもありそうな物語。
考えたことがなかったので、今後の妄想に活かしたい。
(とりあえず防災リュックを用意するか)
面白いかどうは別として、
将来への不安が生み出した物語。類似作品と差別化された創造性は高く評価したい。

参考文献。
・ウィリアム・ゴールディング著、「蠅の王」
・ジョージ・オーウェル著、「動物農場」
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