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私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスターのhasisiのレビュー・感想・評価

3.4
フランス。北部にある大都市、リール。
アリスは女優で、ルイは詩人。姉弟は10年来の絶縁関係にある。
舞台で公演中のアリスは、楽屋でルイの出世作となった詩集に目を通すが、屈辱的な内容に打ちのめされる。
2人は両親の入院を切っ掛けに再会する事になるのだが。

監督は、アルノー・デプレシャン。
脚本は監督と、ジュリー・ペール。ナイラ・ギゲ。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🗼🐎
[アベル]父。
[アリス]姉。
[アンドレ]アリスの夫。
[ジェイコブ]ルイの息子。
[ジョセフ]アリスの息子。
[ズウィ]ルイの友人。
[フィデル]末っ子。
[フォニア]ルイの妻。
[ルイ]弟。
[ルイーズ]母。
[ルチア]移民の女性。

【概要から感想へ】🧊🚗
デプレシャン監督は、1960年生まれ。フランス出身の男性。
1991年デビューで、本作で13作目。
ドラマ映画の専門家で、カンヌの常連。
2015年の『あの頃エッフェル塔の下で』で、セザール賞(フランス)の監督賞に選ばれている。

アメリカ映画好き。
社会派と、家族ものの2つの路線。
後者の場合は、不仲と鬱病で一貫している。

もう1つの特徴として、ユダヤ教信者を描くことに強いこだわりを持っている。
フランスはヨーロッパでもっとも多くのユダヤ系が暮らす国で、その数は50万人を越える。
反ユダヤとの衝突が絶えず、礼拝所を軍人がパトロールするなど、テロへの警戒。嫌がらせや脅迫への対応に追われている。

🧑‍🤝‍🧑〈序盤〉🛬🏥
唐突なはじまり。
映画中毒のわたしの最近の傾向は。
冒頭で、風景描写、主人公紹介、想定外の出来事と、オーソドックスに描かれると眠気に襲われて、つぎの映画に移動してしまう。
本作のように物語の一場面を切り取って、「何が起こっているのか?」を想像させる。
これで脳が退屈しないので、先が気になる吸引力の役割を果たしてくれる。

近親嫌悪。
若い頃は、見た事のない親の姿を描いて「本当はお前を愛していたんだ」と、感動させようとする場面が嫌いだった。
仕事に夢中で子供を放置した親の言い訳だから。

本作の場合は、子供が知らない親の姿をただ切り取ってある。
人として尊敬できれば、血の繋がりがあるので、それだけで伝わる。
「本当は~」なんて、わざとらしい場面では距離が近すぎるのだ。
お洒落で学びの多い映画。

🗣️犬猿の仲。
壮絶姉弟喧嘩を彷彿させるけど、実際は10年以上の疎遠。
離れて暮らしているので喧嘩のしようもない。
まるで、西部劇の宿敵が離れた場所から出発。合流を目指して旅するように。

暖かい。
60代で描いている影響もあるだろう、思い出が遠く、心にも余裕がある。
詩人の主人公を描いているだけあり、言葉に自信がある。
心の中で懺悔するにしても情熱的で伝える力に優れている。

3つの事象から、家族との距離感を描いてあるのが分かる。

🧑‍🤝‍🧑〈中盤〉💊🕳️
記憶の蓋。
新キャラ登場で新展開。
この辺は、お洒落なフランス映画も少年漫画と変わらない。
思い出を語る形で過去へ。

止まっていた姉弟の時が動き出し、憎しみが溢れ出してくる。
怒りの表現が凄まじくて爆発するよう。
昔からの親友と再会して一瞬で意気投合するのと逆。
親の仇のようにいがみ合う。

🛌🏼親の入院生活。
ちょうど監督の両親が亡くなる年代なので、描写が細かくて詳しい。
回顧録の役割も果たしているのだろう。
未経験の年下の観客にとっては将来を想像させる手掛かりに。

🧑‍🤝‍🧑〈終盤〉🪦💐
幻想的な別離。
舞台演劇を使った心情の引用など。
飽きっぽいのだろう、色々な場面が散りばめてある。
エンタメでよくある車などの動的な場面を使ってメリハリをつけるのと同じ。
表現の幅を広げるのにいい刺激を与えてくれる。

🌍断片的な編集。
まるで書いた原稿を破いてゴミ箱に投げるように。
試しに撮影してみた場面を切って貼りつけてある。
感情の起伏。不安定さを表現するのに効果的に機能している。

【映画を振り返って】👨🏻‍🏫💃🏻
親を看取る姉弟の物語。劇的なシチュではあるが、リアリティ重視でじっくり腰を据えて。
娯楽は期待しない方がよく、長くてただ辛い。

鬱と夢。
ストレスを発散するように切れ散らかすのと、観客を楽しませようとするサービス精神が混在している。

🎭表現の巧みさ。
切り取りや三人称を活かした演出が見事。現実では体験不可能なものを提供してくれるので、充足感が得られる。
とくに心情表現が豊か。

二面性のある脚本家が、面と向かって相手に言えない言葉を「心の声」として書いて、視聴者にだけ伝える技法があるが、
それのベテラン。
「引っ込み思案」をスタイルにしている人は勉強になるかも。

🌃先が気になる。
・唐突な展開で関係性や人物像の説明をはぶく。
・どうして姉弟は仲が悪いのか?

エンタメじゃなくても、フックは意図的に作り出せる。
ただし、方法論の1つであって、答えではない。とくに、歴史ものの場合は最初から順を追って丁寧に表現した方が壮大なものが描ける。
(日本は分かりやすさ重視の独自路線だし)

インタビューを聞いてゆくと、友人の身に起こった悲劇や、監督自身の体験の組み合わせで出来ているらしい。
長年書き続けるとネタ切れするので当然ではあるが。
舞台の裏側を描いた場面も、仕事で馴染みのある光景だろう。
本人は空想と現実のメモ。断片の組み合わせ、と謙遜するが、監督本人の身に起きた出来事のように綺麗に溶け合っている。

❤️‍🩹仲の悪い姉弟。
感動的なエンディングを迎えると「そんなに簡単じゃないよ」と白けてしまう。
とは言え、それなりの満足感を与えないと気分が悪くなる難しい題材。
親子関係含めて、家族との距離感がリアルなので「やっぱり監督自信の話だよな」と疑わずにはいられない。

わたしも兄弟とは年に数回しか会わないし、長く時間を過ごすと口喧嘩になる可能性があるから、付かず離れず。
映画のように衝突を盛り上げても、観客には迷惑なだけなので。
反りが合わない場合は無理しないで、適度な距離感を保つのが大人の付き合いだと思います。

知り合いから親族との絶縁の理由を延々と聞かされるにつけ、極論している人達の方が罪悪感から、よほど家族に縛られているような気がしますが。
愛情が深い人ほど極論せずにはいられないのかもしれません。
本人には言えない内緒の話です。
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