サンヨンイチ

哭悲/The Sadnessのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
3.9
不気味でストレスフルなエンドロールの最中、
後ろの観客の存在が
これほど気になった映画はなかった。
いつ襲われるやもしれぬ恐怖感が伝染していく。

冒頭のカップルの会話からして、
マスキュリニティが滲み出る。
電車でよく会うと言う中年男性も
スマホを貸す男性も(ややステレオタイプに傾倒気味か)、
感染に至る前から既に男性性に帯び、
そのストレスをヒロインの目線から受けとることができてしまう。

パニック発生まで極めてテンポよく、
登場人物にも無駄がない。
ジャンプスケア的な驚かせ方は無く、
矢継ぎ早に切り替わるカメラワークと
心臓を叩き上げるようなBGMで
うなぎ登りに盛り上がっていくが、
グッと急ブレーキを踏んだように
感染者の顔にクローズアップされるいくつかのシーンによって
ゾワゾワと立つ鳥肌を抑えきれない。


ラストで明らかになる
医師の独白によって
模倣犯の存在が示唆され、
後味の悪いリアリティだけを残していく。

現実のコロナ禍において
この模倣犯(便乗犯とでもいうべきか)は一体何たりえるのか。
あり得ないと言い切れないのが怖い。