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ショーイング・アップのmanamiのレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
5.0
試写会にて鑑賞。
美術学校で講師を勤めながら、自身もアーティストとして制作に励み目下個展を控えているリジー。そんな多忙な日々だというのに、家のお湯は出ないし、大家でありアーティスト仲間でもあるジョーはまともに対処してくれないし、飼い猫は迷い込んだ鳩を襲ってケガをさせるし。
問題はバラバラに暮らす家族たちにも。母親との関係はどこかよそよそしく、父親はちゃらんぽらんで、兄貴は被害妄想で引きこもっている。
状況だけ並べるとなんだかやけに大変そうだけど、リジーは穏やかにそれらを受け止めていて、「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇」というかの名言を地でいくかのように、流れるようにそよぐように過ごしている。もちろん彼女にもイライラが爆発するときがあるけど、その伝え方だって、いたって平和的で、いかにも彼女らしい。
そんな彼女の芸術家としての表現方法は、人形。目の前の人間をモデルにするのでなく、頭の中のイメージを形にしていく。そのスタイルにも彼女の個性が表れていると感じる。
そして対照的な存在として重要な役割を果たすジョーは、全身で外界と繋がることでダイナミックな作品を生み出している。性格も社交的でおおらか、大胆。背景などは描かれないながらも、なかなか強烈なキャラクターもあいまって、半ばダブルヒロインのような立ち位置となっている。
試写会でオンライン登壇したケリー・ライカート監督は、二人それぞれに共感できるそうで、特にある場面でリジーが不快な感情を吐き出すのは、若い頃の自分の姿に重なると話されていた。
また、リジーとジョーは二人とも、まず使わせてもらう作品(アーティスト)を決めてから、それをもとに各々のキャラクターを作り上げていったというお話もとても興味深かった。(リジーの作品はシンシアというアーティストの方のものとのことだったけど、ジョーのほうのアーティストはお名前聞き逃してしまった)
そんな具合にリジーとその周りの人々がゆったりと、愛あるユーモアをもって描かれる、ほんの数日間のお話。
音楽も軽やかで優しい雰囲気、それでいてどこか不安をのぞかせるような空気感もある。スケボーの滑走音や鳥の鳴き声など背景音、環境音、生活音も際立っていて、不思議な臨場感も感じられる。
ソフトな質感の画面も心地よい。カメラマンとは今作で5度目のタッグだそうで、いかにもデジタルというくっきりした映像にならないよう、レンズやフィルターなどで調整したらしい。夏のオレゴン州で撮影していたが曇りの日が多く、それが画面の柔らかさにつながっていたかも、との監督談もあり。
そして使ったレンズの名前が思い出せないことを気にして恥ずかしがったり、ケリーライカート監督、とってもチャーミングな方でした。他、ネタバレになっちゃう話はコメント欄にて。

155(1195)
試写会なのでスコアは便宜上。
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