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EO イーオーのやぎのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.8
イェジー・スコリモフスキ監督『EO』が圧巻の完成度🐐
ロバの主観的・客観的視点を物語の中心に添えながら人間社会を客観的に捉えるコンセプトが大成功。ロバの視点と思われるものが異様にサイケデリックな映像になってたり、大自然の美しさを見事にキャプチャーしていたりで、終止画面に釘付け。

ミハウ・ディメクの映像美とパヴェウ・ムィキェティンの壮絶な音楽の相性も見事だった。上映時間が88分というのもバッチリでムダなショットがなく、グッと絞り込まれた作品。ロバの内面を連想されるような誘導的な描写はほぼなく、安易な感情移入を許さないドライな作りにも感服。

馬が映画的動物だと言われることもあるが、ロバもなかなかじゃないかなと思った。ロバに歩調を合わせたカメラ・モーションは滑らかで魅力的だった。馬との対比と思われるシークエンスもあって、この映画でロバは寡黙で、馬は騒々しかった。ロバの寡黙さはスコリモフスキ的と言えるかもしれないな。

『エッセンシャル・キリング』でも、それこそ本作のロバのように寡黙な登場人物がいたし、『イレブン・ミニッツ』には犬の目線があったり、過去作と繋がる部分もあるから、自己模倣的な側面もあるんだろう。そういった過去作の欠片が全体のコンセプトで一本の線として繋がったんだな。

しかしイザベル・ユペールの使いどころは贅沢だったし、活きていたなぁ。本作ではロバ以外はなんらかの騒音(でかい音)を出すんだけど、彼女は食器をがっしゃんがっしゃん投げたり落としたりして、ひとりで見事に人間=騒音の役割を果たしていてな。気持ちいいくらいうるさい音響設計だった。

本作はとにかく全体が丁寧にコンセプチュアルに作られていると感じた。過度な叙情性やドラマ、メッセージ性を廃して、徹底的にロバやそれを見つめる視線を抽出して再編成することに徹した映画だと思う。EOの役を担ったロバは全部で6頭らしい。みんな良い演技でした。お疲れ様でした。
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