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EO イーオーのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
4.2

ロバのロードムービー、つまりはローバムービー。
というクソしょうもない駄洒落は置いといて、旅映画であり同時に鮮烈な印象を残すアートフィルム。
静かな観察者たるロバのEOの目を介して観る世界。
EOが彷徨い歩く夜の山は、
物凄いスピードで清流を泳ぎ下るカエルは、
闇の中で月灯りに照らされ輝く糸を放つクモは、
神秘的で幻想的で不可思議。自然に対して人間の行いの傲慢さ不遜さ。
競走馬として育てられるサラブレッドは旨い干し草を与えられ丁寧に扱われる一方、山の中で生きるオオカミは銃で撃たれる。人による選別。

(動物愛護団体の標榜するメッセージが形骸化しているように見えるのは、冒頭からEOとサーカス団の娘カサンドラの交流をしっかり描写してるから。EOはカサンドラと居られる事を幸せに感じており、別れる際にはなんと涙を流すのだ。動物虐待反対という思想自体は何も間違ってはいないが、サーカス団から引き離される場面において、1番優先されるべき当のEOの心情は一切考慮されていない。
このシーンで作り手が言いたいのは『動物愛護活動』が間違っているのではなく、本来の目的から離れ思想・イデオロギーが暴走する危険性の比喩的に語っているのだ。)

EO君の黒目がちな瞳が可愛くて切なくて。

一応、映画.comのあらすじ&紹介文を。
【「アンナと過ごした4日間」「出発」などで知られるポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキが7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、一頭のロバの目を通して人間のおかしさと愚かさを描いたドラマ。

愁いを帯びたまなざしと溢れる好奇心を持つ灰色のロバ・EOは、心優しい女性カサンドラと共にサーカスで幸せに暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、ポーランドからイタリアへと放浪の旅に出る。その道中で遭遇したサッカーチームや若いイタリア人司祭、伯爵未亡人らさまざまな善人や悪人との出会いを通し、EOは人間社会の温かさや不条理さを経験していく。】

え、あれイタリアじゃなくポーランドの田舎の草サッカーチームじゃなかったかな?
草サッカーの試合に出くわし、たまたま劇的な勝利の立役者としてチームに祭り上げられるEO。
あのシーンはそこはかとないユーモアがあり笑った。


人間の営みは自然にとって不遜で傲慢とのメッセージはあるにせよスコリモフスキの深遠な洞察はそこに留まらない。
大上段に構えたアート映画でもなく何かを糾弾するでもなく。在るが儘の世界を映像に捉えて観客にどう見える?どう感じる?と差し出す。

オーケストラ風の劇伴や自然音の録音。映像だけでなく、音の表現も極めて美しく、荘厳、時にアバンギャルド。

古典的な芸術映画なのかといえばそうではなく、現代的なモチーフや技術も。自然に生きる動物達同じように動く四足歩行ロボ。
急傾斜な山の清流を上流から駆け下りるようにドローン撮影(?)と思われるカメラワークも。


出演時間がかなり短いにも関わらず、後を引くような存在感を示すイザベル・ユペール。
果たしてあのシーンの意味する所は何だったのか?
そのシーン意外にも謎を残すシーンが有り、回想・反芻しながら映像全体の中の位置づけや撮られた理由などを考えるのもまた本作の楽しみ方だとも思う。

【ちょっとネタバレ】
あの滝をバックに橋の上にEOが収まる絵画のようなショットの後に、滝の水が逆流するシーン。あれも何だったのだろうか。
あれは奇跡が起きたのだろう。神のみ起こす事が出来る奇跡により、愚鈍で下に見られていたロバEOが、いわば虐げられた者が人々の苦しみや災いを背負って…十字架にかけられたキリストのように…という解釈をした。
(『幸福なラザロ』のラストを連想する。)
他の方の感想も聞いてみたい。
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