うえびん

逆転のトライアングルのうえびんのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.4
私たちは何に隷属しているのか

2022年 スウェーデン作品

北欧の映画独特の間と皮肉がとても面白かった。前情報を何も知らずに観ていたら、どこかで見たことがある雰囲気だと感じて監督の作品を調べると『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド監督だと知った。それを知ると、しつこく長い口論や、汚物や吐物の描写も何かの隠喩だと感じて魅入ってしまった。

『フレンチアルプス~』は、夫婦と親子の力関係を皮肉った作品だったけど、こちらは、男女の関係から人間社会、国家、世界まで皮肉の対象がどんどん拡がってゆく。皮肉の対象が広がっても、遠い世界の架空の出来事でも、決して他人事ではないと身につまされるのは『フレンチアルプス~』と同様だ。

ルッキズム  (外見至上主義)
フェミニズム (女性尊重主義)
キャピタリズム (資本主義)
マテリアリズム (物質主義)
マネタリズム  (新自由主義)
コミュニズム  (共産主義)
ソーシャリズム (社会主義)
マルキシズム  (マルクス主義)
ナショナリズム (国家主義)
パトリオティズム(愛国主義)
レイシズム   (人種差別)

人間と人間社会の主義・思想には実にいろんなものがあるんだなぁとあらためて気づかされる。頭の中で考えたそれは、信条や生き方として身に沁みついてゆくから容易には変えられない。主義・思想が反する者同士は容易には折り合えない。

作中で、船長が語ったユージン・デプスの言葉が印象に残った。
「征服と略奪のために戦争は行われてきた。権力者が宣戦布告して、国民に、敵と戦い殺されることが愛国者の義務だとすり込んだ。マスコミは金融界の言いなり。」

いろんな主義・思想も、権力者(現代では金融界)が大衆を意のままに操るためにマスコミを使ってすり込んでいるのかもしれない。そういった言論を「陰謀論」として議論の俎上に上げようとしないことも然り。

「雲の中!」
口のきけないセレブ妻が連呼し続けたのは、このような、いろんな主義・思想でがんじがらめになって、些細な違いで折り合えなくなっている人びと(私たち)を表現しているんじゃないかと思った。

第二部で、デッキの上でカールが読んでいた『ユリシーズ』も気になった。本作を解するヒントが詰まっているのかもしれない。

少し長かったけど、それは映画の作り手(監督)が、観る者を消費者として隷属させるために、我慢を強いるよう、あえてそうしたのかもしれないと深読みしてしまう。そう考える僕には、すでにマーケットファンダリズム(市場原理主義)という思想がすり込まれているんだろう。
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