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アルマゲドン・タイム ある日々の肖像のWNTのレビュー・感想・評価

3.6
6年生になったばかりの少年ポールは黒人少年のクラスメイトジョニーと仲良くなる。
ジョニーは問題ばかり起こし落第したため2度目の6年生で先生も手に負えない。
ポールも好奇心旺盛で絵ばかり描いて授業を聞いていないためふたりはすぐに意気投合する。
ある日ジョニーが持っていた笑いが止まらなくなるという葉っぱをふたりで学校で吸ったことによりポールは転校しジョニーはクラス替えをすることになる。

ユダヤ人のポールの先祖は悲しい過去を背負っている。
けれどまだ子どものポールには分からないことが多くて、社会に適応して幸せに生きることとは何かがピンとこない。
どれだけ家族が教えても彼の幸せは本人が一番分かっていると思いたいが、いい人生を歩ませてあげたい。過去のような辛い経験をしてほしくないという思いから彼を縛り付けてしまうのかもしれない。良かれと思って言っているからこそ考えさせられるものがある。

黒人のジョニーも親がいない祖母と暮らす苦しい生活のなかで差別され後ろ指を刺されることに耐える生活から抜け出したいと願っている。
お金も教養もないなかでレッテルを貼られ続けた先代からの差別的な繰り返しから逃れることはできなくてもがき続けるけれど救ってくれる人はいない。
自分を救うことができるのは自分だけ。まだ子どものジョニー呟くように言った言葉が意味深で現代の社会問題を表しているように思えた。

私たちの生きている世界は不平等で静かに耐えなければいけないときもあれば、これでよかったと自分を落ち着かせなければいけないときもある。
しかし人種差別や決して許してはいけないこと、誰かの悪口は黙っているべきではない。
嫌われたくない、変に思われたくないからと言って頷いたり同調することは決してかっこいいことではなく誰かが止めなければ終わりはない。
優しく厳格な祖父として師としてのアンソニー・ホプキンスの人格が素晴らしくてポールに様々なことを示し教えてくれる。
やってはいけないことはないから夢を追いかけなさいと伝え背中を優しく押しそっと寄り添う姿が温かくこのような家族がいるだけで心を強く持てる。

差別と格差のなかで生きるふたりの少年がどのように生きて道がひらけていくのか、正反対の姿を観て私たちはどう思うのか。
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