柊

トリとロキタの柊のレビュー・感想・評価

トリとロキタ(2022年製作の映画)
3.7
予備知識を敢えて排除して鑑賞。
アフリカからの違法ルートでの入国だろうと言う事とこの姉弟が便宜上の関係でありながら既に共に寄り添って生きる事を望んでいる事も早々に分かる。

そしてロキタにビザが下りなくて、まともな仕事を得られない事もおおよそわかる。
それなのに,ロキタは故郷の母に送金をせねばならぬ。おまけに違法入国の手引きをした斡旋業者にもお金を巻き上げられると言う始末。ロキタのお金を稼ぐ手段は当然薬の売買の下っ端。弱い物がとことん搾取され続ける社会構造。ロキタはまだ成人にも達していない年齢だ。とうとうどこかもわからない場所で麻薬栽培を担う危険な仕事にまで追い詰められる。
その行く末は自ずと想像がつく。明るい未来など決してない事もわかる。偽造ビザにだってたどり着けまい。

これ過去の話でも未来の話でもない。多分今を生きるアフリカの貧しい国の若者の話だろう。故郷の貧困はこんなにも若い子を苦しめているのかと思うと胸が痛む。故郷にはまだ幼い兄弟がいるようだし、母に送金と言う事は父はいないのだろう。どこまで行っても出口が見えない。アフリカ諸国の豊富な資源はいったい誰を潤しているのだろうか?
同じくたどり着いたベルギーもこういうビザを持たない外国人をいったいどうしようとしているのだろう?トキは迫害を受けて育ったのでビザもおり学校にも通えているが、偽りの姉として弟に便乗してビザを申請しようとしてもそう簡単では無さそうだ。むしろこの偽りを見破っているかのように感じ、未成年者にも全く容赦ない。
どこの国も違法入国者の問題は深刻だし、全てを受け入れる訳にはいかないのはわかる。でも故国に住めない人はいったいどこで生きれば良いのだろうか?これは全世界の問題でもある。

ビザを手に入れ、家政婦になりトキと2人で寄り添って暮らしたい。ただそれだけだったのに。小さな夢は叶う事は無かった。
なんとも重たい現実を突きつけられた。

私はこの監督の「少年と自転車」が好き。
柊