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クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの消費者のレビュー・感想・評価

4.2
・ジャンル
SF/ボディホラー/スリラー/サスペンス

・あらすじ
舞台は人体から痛みが消えた近未来
体内に次々に新たな臓器が産まれる加速進化症候群を患うソウルはその除去をパートナーのカプリースと共に公開手術を行うパフォーマンスアーティストとして活動してきた
2人の実績は人間の“誤った進化”を危惧する警察の部署、NVUの傘下にある臓器登録所の捜査官達も舌を巻くほどの物であった
しかしソウルにはカプリースにも明かしていない秘密がある
彼はNVUに情報提供を行う秘密捜査官でもあるのだ
そんな彼の元にプラスチックを消化する特異体質を持つ少年ブレッケンの遺体を公開解剖しないかという話が父であるラングから直々に持ちかけられ…

・感想
奇才デイヴィッド・クローネンバーグ監督による最新作で日本では昨年の話題作
彼の作品はまだ「ビデオドローム」と「裸のランチ」しか観た事が無かったもののそれらが難解ながら面白かったので鑑賞

公開手術の光景やソウルが睡眠や食事に使うデバイス、手術道具であるサーク解剖モジュール等のビジュアル
薄暗く荒れ果てた街並みや世界観などはとても魅力的だった
しかし思った以上に難解な内容で終始解釈を必死にしながら振り落とされない様にするので必死にさせられた…w
それでも不思議と観ていられるのが監督の手腕を感じさせるし解釈を無理にせずとも惹き込まれる部分も多い
官能的なボディホラーという点では「ヘルレイザー」に通じる印象も若干ある

個人的な解釈としては
・マイノリティや社会と共に変化していく人々、それに対して否定的な保守派という構図の風刺
・SNSを主としたネットワークの影響により個性を競い合う様になっている現代人の成れの果てとしての身体を利用したパフォーマンスアート
・変化に適合する事を是とするカウンターカルチャーとしての身体改造
・拒絶する者も受容する者も共に変化に歪に呑まれていくという人間の不可逆性
・身体破壊とセックスの類似性
・文化と信仰の親和性
これらの事が表現されていたのかな?と
そして変化を受容する者においても自然な変化のみを認める層と人為的な形で急進的にでも適合する為の変化を望む層がいてこの2つが敵対しているという点もなかなか面白い
そこに現実社会でも難題となっている環境問題が絡められているのがまた興味深かった

こういったメッセージ性と共に一貫した軸としてニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉を思い出させる心理が登場人物達の多くに見られるのも身体的な変化だけでなく精神も含めた新たな形のボディホラーを見せられている様で秀逸だった
感受性で映画を観る人も考察を好む人も同時にねじ伏せる圧倒的な世界観は「ブレードランナー」シリーズが好きな人にも刺さるかもしれない

また世界観や設定、ストーリー、メッセージ性等は極めて複雑な上に登場人物が多いのも本作の特徴としてあるけれどこんがらがる事なく自然に整理出来る様にそれぞれを配置して描いている点も見事
大風呂敷を広げながらもしっかりとロジックがあるんだな、というのがそこから感じられる

万人向けの作品では確実に無いもののボディホラー、異形、SF、ディストピア等が好きな人ならどこかしらにはハマると思うのでオススメ
ただ観ていて体力を使う作品ではあるので何度も観たい!とはならないかも…w
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