『聖地には蜘蛛が巣を張る』には拍手したい。観てる間は途中までポン・ジュノ『殺人の追憶』、デヴィッド・フィンチャー『ゾディアック』、リチャード・フライシャー『絞殺魔』なんかを連想してたけど、後半そのどれでもない驚愕の展開に流れ込んでいって、着地点に心から戦慄した。
宗教や社会、それらを取り巻く空気が作り出したシステムが差別構造を産み出し、それに人々の道徳観や倫理観がチューニングされて、そのシステムの外側の人間から見れば狂気としか思えない事柄が、システムの内側では正義のように思えるというおぞましい構造を見事に映像化してみせた。
システムの内と外という物語を、どうしてこんなに上手く映像化できたかは、監督のアリ・アッバシがイランで産まれながら、その外で映画を撮っているということが大きいんだな~とこのインタビューを読みながら思った。今回の撮影は大変だったみたいだ。
https://aws.cinra.net/article/202304-AliAbbasi_ymmtscl
ここがポイントだよな。
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アッバシ「けれどぼくは、自分がイランの外にいることを問題や損失ではなく、むしろ戦略として考えたい。ぼくはつねによそ者、つねにホームレスのようなものですが、ジョイスやナボコフのように、そのことを自分の利益のために使いたいし、別の視点から物事を見たいんです。」
あとこの映画は女性がメイクすることをあえて露悪的にというか、グロテスクに書いているところが面白かったなぁ。そういう細かい演出一つ一つが、イランにおける女性の立ち位置がどのようなものかを、リアリティーをもって示している。すごく繊細な演出の積み重ねで活きている映画とも思ったな。