明らかに『すずめの戸締まり』と『ブラックパンサー』にスクリーンを占拠されてしまっている。
しかし、そんな中でも寺島しのぶさんがかなり頑張って宣伝していた印象。このネタをそう言って良いのかわからないが、良い映画だった。
昨年、99歳でこの世を去ってしまった瀬戸内寂聴の仏門に入るキッカケとなった“不倫”、その実話に基づく映画。ある意味、スキャンダル。
しかもこの原作は瀬戸内寂聴の不倫相手の娘が書いている。寂聴は彼の娘がこの原作を書くにあたり、取材に惜しみなく対応したらしい。
ものすごい赤裸々な話。
本人達が体験し、その当事者達が紡いだ話で、逆にちょっとそれを見聞きするこっちが付いていけないレベルでざっくばらんに描かれている。
瀬戸内寂聴、見た目も含めてもはや仏門に入った後のことしか知らない。
まさかこの人がそんなことになったことで出家したとは。
何となく話としては知ってたが、「わざわざなぜに出家まで？」と普通はなるし、実際、その問いに対する答えもまたドストレートに本人が相手に対してアンサーしている。
傷心とか、人間不信とか、絶望とか、世に対するそういう概念的な負の結論ではないところがまた瀬戸内寂聴らしいと言えば、らしい。
もっと言えば、もうそれしかないと行き着くほどの情事であったことが瀬戸内寂聴に対して人間味を感じる。
この映画に際して、寺島しのぶと豊川悦司。
元の瀬戸内寂聴と井上光晴にせよ、寺島しのぶと豊川悦司にしろ、一言で言ってしまえば、もはや妙齢の2人の、おばさんとおっさんの大人の絡みの不倫話。
そのどこに映画にするほどのドラマがあるのか、と。
観てみればそれがわかる。思いのほかストレートにそれが伝わってくる。
というか、少し目頭が熱くなりさえする。それに驚く。
瀬戸内寂聴と言えば、紫の袈裟を着て、頭を丸めて、ワイドショーやら年末年始の時事的な番組とかで“笑いながら優しく厳しく歯に絹着せぬ物言いで良いこと言う人”みたいなイメージ。
それが、ここには、そうなる前の、俗世間にいた頃に、ガッツリ俗世間らしいことをしていた彼女がいる。
まったくもって人に褒められるようなことではないことを体験している真っ只中の話。
「“出家”することは生きながらにして、死ぬことよ」
この重み。
自らが自らの決断で招いたことではあることとは言え、一方で、貪欲に、強欲に願い求めても、そうなるとも限らず。
しかし、その道しか自分にはないとしか思えない中で、見え始めた結末が誰にとっても幸せではないことを悟る境地。
相手の井上光晴も、ホントにダメ過ぎる体たらくぶりだが、彼は彼なりのあるようなないような哲学があって、自分本位にあれこれした結果、彼女と共にそこに辿り着く。
その時のこの2人の何と言って良いかわからない2人の関係性というのか、境地。
最後の方の2人の会話における“行間”みたいなもの。愛なのか、悲しみなのか、やるせなさなのか、何なのか。
その何だかわからないものが、何だかわからないものとして、言葉にならない領域で伝わってくる。
“シャンプー”“剃髪”“鰻”。
この3つのシーンにはほぼセリフがない。セリフがないけど、言葉ではない方法で確実に“確実に起きて変わったこと”を伝えてくる。
シャンプーで髪をシャカシャカ、手動のバリカンでキコキコ、カミソリジョリジョリ、鰻の膳を箸でカチャカチャ。言葉がなくともその音が物語る心中というのか、印象的だった。
と、あれこれ思いつつ、この映画にもちょこちょこ出てくる井上光晴の娘がこれを描き切ってること。そして、何より、井上光晴の妻の価値観、ここが想像を絶する。
不倫自体は当事者2人の背徳的な行為であったとしても、この彼の娘と妻が、この娘と妻でなければ、いや、この娘と妻であったからこそこうなっていることが、この物語の要。
映画としての配役として、家に広末涼子がいるのに、、、、と言うのは置いておいて。
この妻の価値観や挙動、これがある意味では仏であり、鬼かもしれない。
原作読んでないけど、この映画を観て“あちらにいる鬼”はそうなんじゃないかと思えた。
だから、そういう意味でもただの男と女の不倫で盛り上がる話ではなかった。
確かにトヨエツと寺島しのぶは盛り上がってたけど。観るべきところはそこのみにあらず。
広末涼子、世代としてやっぱり素敵。
寝巻き着て横になってるシーンでも光量とか重力というものがまったく関係ない透明感と表情。
もう彼女は魔女かもしれない。
にしても、豊川悦司、いや、井上光晴。彼の貞操観念はさすがにどうかしてる。モテて羨ましいとかそのレベルの範疇を超えてる。
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