MasaichiYaguchi

ヒンターラントのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ヒンターラント(2021年製作の映画)
3.5
ステファン・ルツォビツキー監督が、残酷な戦争が生んだ悲劇を全編ブルーバック撮影による美しい悪夢のような映像で描いて、2021年・第74回ロカルノ国際映画祭で観客賞を受賞した本作は、主人公のペーターが自身の心の闇と向き合う為に、かつての戦友の連続惨殺事件の真相を暴いていく様をスリリングに描く。
第1次世界大戦後、ロシアでの長い捕虜収容所生活からようやく解放された元刑事ペーターと戦友たちだが、帰還した彼らを待ち受けていたのは、敗戦国となり皇帝は国外逃亡し、愛する国と家族を守る為に戦った彼ら兵士たちに対するねぎらいの言葉すらない、変わり果てた祖国の姿だった。
ペーターは帰宅したものの家族の姿はなく、行き場を失ってしまう。
そんな中、ペーターの元戦友が河原で遺体となって発見される。
遺体には相手に苦痛を与えることを目的に仕掛けられた拷問の為があり、その痕跡から犯人も彼らと同じ帰還兵であると思われた。
ペーターは自らの心の闇と向きあう為、その後も発生した連続猟奇殺人事件の真相を、ボロボロの心身に鞭打って追い始める。
遠近法を強調した背景や、水平を欠いて傾いだアングルは、恰も“軸”を失って不安定な社会や主人公の心情を象徴的に表現していると思う。
連続猟奇殺人事件に共通することや、現場に残された数字「19」によって、犯人や動機が少しずつ解き明かされていく。
果たして戦争が生んだ悲劇は、どのような結末を迎えるのか?