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ウィキッド ふたりの魔女のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ウィキッド ふたりの魔女(2024年製作の映画)
4.2
 魔法と幻想の国オズにあるその名もシズ大学。脚の悪い妹を気に掛けながら、聡明でありながら家族や周囲から疎まれ、養母のクマに育てられた孤独なエルファバ(シンシア・エリヴォ)は自己肯定感が低いまま、多感な思春期を迎えた。然しながら彼女には思慮深さと何よりも魔法の閃きがあった。一方、この世に美しく生まれ、誰よりも愛され特別であることを望む皆の人気者グリンダ(アリアナ・グランデ)の相性は最悪で、正に水と油の様な出逢いに見える。スクール・カーストなどと言われるようになって久しいが、人間は見た目の優劣でグループを格付けしたがる。自分はこのグループには入れないと別のグループを模索する。或いは持っている趣味で折り合う人物を見つけ、何とか学生生活を頑張る。シズ大学の雰囲気はさながら『ハリー・ポッター』シリーズの魔法学校の雰囲気である。あらゆる人種と癖が強い多感な学生たちを束ねる先生たちは動物もいれば、マダム・モリブル(ミシェル・ヨー)のようなカリスマ的な力を持つメンターもいる。孤独なエルファバと人気者グリンダとは相いれない学生生活を送るやに思えたが、皮肉にも何かの手違いで大学の寮で偶然ルームメイトとなってしまう。

 その時点では互いが互いを視界に入れたがらないほど忌み嫌う。それは無理もない。緑色の肌のせいで幼き頃から迫害を受け続けたエルファバの気持ちなど、生まれながらの人気者グリンダには到底理解出来ないのである。学校生活での孤独はロッカールームでからかわれ、ランチタイムに1人で飯を食い、しまいにはプロム・パーティではぶられるのが関の山だが今作も例外ではない。アメリカ人の苛めあるあるの3点セットにトドメは、自由気ままでオレ様気質なハンサムな王子フィエロ(ジョナサン・ベイリー)の登場である。『バービー』においてバービーの彼氏はケンと決まっているが、グリンダの彼氏候補として中盤、突如ハンサムな王子フィエロが登場する。その雰囲気はハンサムなイケメンで知性もあり、まるでアメフトのクオーターバックのような学校の人気者である。学年NO.1の男女同士はもはや最初から青春群像劇の王道を行くのが世の常だが、あろうことか中盤以降、2人の関係はギクシャクし始める。そこからは恋に奥手だったエルファバも加えた三角関係は微妙なバランスを保ちながら、学園モノの定型を意識ながら進行する。

 ミュージカル仕立ての学園モノ+冒険譚は一粒で二度おいしく、大学の回転する書架のダンスシーンは正に必見と呼ぶしかない。勿体ない点もないわけではない。一つ目はエルファバとグリンダの雪解け前からの極端な心変わりである。お婆ちゃんの帽子を被らせ、クラスの笑い者にしたグリンダの高慢ちきが彼女の型にはまらないダンスを見て瓦解する。正に「ありのままの姿見せるのよ ありのままの自分になるの」状態だが、まるで180度転換してしまったような唐突さである。2つ目はPG12以下の全世代向け作品におけるフィエロとエルファバとの森の中の彷徨の曖昧な描写に尽きる。それゆえエルファバとグリンダのシスターフッド的な連帯の駆動の意味合いにフォーカスしない。列車を見送るフィエロ側は自身の葛藤を表情の中で垣間見せる。エルファバを叱咤する為に駅構内へとギリギリでやって来る。彼の表情や声色を逐一確認したガリンダが、心底読みにくいがリンダからグリンダへと決別を図るのは、思春期の彼女の恋の終わりに他ならない。然しながら失意真っ只中のグリンダの焦燥を親友のエルファバは彼女の寂しさに寄り添う。そこから先の物語は、2人の魔女の自由への旅立ちにも思える。そこには白馬に乗った王子もヒーローもいないが、心友の姿に励まされる。見事な前日譚である
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