垂直落下式サミング

ウィキッド ふたりの魔女の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ウィキッド ふたりの魔女(2024年製作の映画)
5.0
ドーンと出たタイトルの右下に“Part1”と書いてあって、いきなり拒絶する発作が出そうになった。配給会社のヤロウまたやったんかっ!と、二部作隠しマーケティングに対するアレルギーが出そうになったけれど、そんな些細なこと忘れるほどに素晴らしい作品でした。
西の悪い魔女が死んだという知らせを受けたオズの人々が、歓喜に歌うところから始まる。そこに、北のいい魔女グリンダが現れ、かつて親友だった悪い魔女エルファバとの過去について回想していく。『オズの魔法使い』の物語の裏側を描く。人気ブロードウェイミュージカルの演目を映画化。
現在は敵対する立場にあるもの同士が、過去には友好的な関係を築いていて、実はお互いに拗れた感情を胸に秘めているというもの。二次創作の常套手段だが、かなりいいバランスでキャラクターのミクロの関係性にフォーカスしている。
『マレフィセント』や『クルエラ』みたいに、あの有名な物語の悪役には実はこういう過去があって…みたいなのはよくあるけれど、あまりにもかつて善人だった設定を盛るせいで、こんないい人が闇落ちするわけないじゃんと元のおはなしの役柄との整合性がとれなくなるケースが多々見受けられる。
だが、『ウィキッド』に関しては、若い頃のエルファバもグリンダも特段いいヤツってわけではないし、最終的な結末は動かないっぽいので、「もしかしたらこうだったかもね」くらいにとどめて、原作尊重の姿勢をとっているのが偉い。
元の『オズの魔法使い』はドロシーと旅のお供の仲間たちのおはなしであるから、そもそも魔女たちはあくまでも脇役。その点でもやりやすいんだと思う。
主役ふたりのイメージカラーが、ピンクとグリーンってのがいいですね。どちらも原色ではない。混じり物の二次色。純ではない。
『オズの魔法使い』は、歴史が数百年しかない新興国家アメリカの建国神話という側面がある。その裏側にあった物語をお見せしましょうとなれば、どうしたってドロドロとしたものが沸き上がってくるし、それは現代に語り伝えるに足るテーマ性を持つ。否が応でも。
その地には、かつて魔法があった。けれど、今はもうない。忘れ去られようとしている。かつて居たものたちは、後からやってきた人間によって追いやられ、滅ぼされた。それが、新世界アメリカ製ファンタジーの中心にある世界観。
魔法や自然を駆逐していく英雄譚の裏側にあるのは、その過程で排除されたものたちの視点。前者は西部劇になり、後者はホラーのモンスターとして、コインの表裏のようにバランスを取りながら語り継がれる。
しっかり楽しみたいんだったら、映画版『オズの魔法使い』の予習か復習は必須かも。善い、悪い。正しい、間違い。ちがう側からみてみる。想像してみる。改めて大切なことだなぁ…と。
上映時間の長い作品だけれど、大きなスクリーンで観る価値のある映画だと思う。特にラストシーンのエモーションの高まりがえげつない。震えるクライマックスだった。見ようによっては傲慢で利己的あるいは向こう見ずともとれるような道に、人生をかけてフルパワーで突っ込んでいく選択を、全身全霊で肯定するこのラストシーンに賛辞を送りたい。
邪悪な魔女と呼ばれることを受け入れたエルファバが、はるか上空から愚民どもに向かって「アタイを捕まえてみんかいっ!」と啖呵を切り、本来の自分を解放していくのは、あまりにもロックンロール。大人向けな刺激物です。
強い信念を持って、私が正しいと思う道を行くというエルファバの思いが、はち切れんばかりに伝わってくる凄まじいクライマックスとなっています。
『アナと雪の女王』が「少しも寒くないわ」のところでバタンと終わったら、あんま教育的には良くないかもだけれど、また別の意味を持つ名作として語り継がれたと思う。エルサも、エルファバも、世界を呪たって仕方ないくらいの境遇だ。
塔の上から落ちていくエルファバが見つめるのは、ガラスに反射した自分の姿。世間に拒絶され、友情を振り払い、最後に残った自分自身。強い意思で眼前を見据えながら手を伸ばすことで、飛翔の魔術を完全にコントロールする流れが、あまりにも見事に映像的に表現されていました。




【観賞後の覚え書き…】

奥さんと鑑賞。女子映画として、たいへん可愛らしくて良かったと褒めていました。実際、観客の半分以上は女性だった。
女の子の寮生活って、あんなかんじなんですって。お化粧やらお洋服やらで、アナタにはこれが似合うあれが似合うだなんて、お友達とわいのわいのしてた女盛りを思い出したそうな。ふたりが仲良くなった後の部屋のところ、大切な思い出の中すぎて泣いちゃったらしい。
彼女には、高校大学とずっと一緒に寮生活をおくった大親友がいて、その子がグリンダちゃんそっくりなんだとか。
生まれてからずっとチヤホヤされてきて、たいていのことが思いどおりになってきたから、自己肯定感が有頂天なタイプ。自分基準で物事を考えちゃうせいで悪意がなくても持たざるものを傷つけてしまうところなど、まさにそのもの。「イヤな美人の理解度が高い!」って大いに褒めていました(失礼)
こういう系は、仲良くなったらなったで、持ち前の可愛げで沼らせてくるからたちが悪いんだとか。一緒にいるだけで、こちらが割りを食うような振り回しかたしてくるんだけれど、なんか放っとけないし、結局は許せちゃうから、だんだん取り巻き連中の気持ちもわかってくるんですって。
姫系ここにあり!なアリアナ・グランデの演技すごいと大絶賛でした。世界の歌姫つかまえて「普段からこういう人なんじゃない?」だってさ(だから失礼だろ)
なるほど。ふーん…。まるで、あたかも、自分は他者に理解されない繊細さを抱えたエルファバ系女子だったかのような口ぶりでしたが、「俺からすりゃあアナタだって負けず劣らずの姫でしたけどね」って言葉が喉まで出かかった。出かかったの飲み込んでえらい。