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Mother and Son(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Mother and Son(英題)(2022年製作の映画)
3.5
[フランス、"成功が一番重要"で崩壊した家族の年代記] 70点

2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。レオノール・セライユ長編二作目。前作『若い女』が"ある視点"部門に選出されてカメラドールを受賞しており、今回はコンペに格上げされた形になる。英題は"母と子"だが原題は"弟"であり、微妙なズレがある。主人公はコートジボワールからフランスに移住してきたある三人家族、二人の息子をコートジボワールの置いたままらしいが、映画では終始完全に忘れられている。本編は20年近くにまたがった三部構成になっており、母親ローズ、長男ジャン、次男アーネストをそれぞれ視点人物として、フランスでの生活や恋愛を描いている。ローズは1989年、二人の息子を連れてパリにやって来る。知り合いの狭いマンションを曲がりしてホテル清掃の仕事を始めるが、勤務態度も家での態度も真面目とは言い難い。彼女は口癖のように"成功することが最も大切だ"と子供たちに言い、それを自己暗示のように言い聞かせている。それはフランスにいるためのアイデンティティの確立であるが、最終的には仕事も恋愛も出来なくなると、どこにも帰属意識を持つことができなくなってしまう。長兄ジャンは母親の言葉を忠実に聞いた。一番になることに加えて、勝負事にはスーツを着る、顔にペイントするなど母親に教わったことを大人になっても逐一再現していたが、実は勉強よりも絵を描くことの方が好きだったことは言い出せなかった。何もかもうまくいかなくなった彼は、母親のように仕事や恋愛に軸足を置くことも出来ず、音もなく空中分解していく。一方の弟は渡仏時に小さかったこともあってかフランスに馴染み、幼い頃から兄を傍で見ていた。彼にはローズが"(フランスに居るためには)一番でなければならない"とするのも理解できない。三者の対比は見事であり、特にローズの存在はいわゆる"移民の苦悩"のクリシェから外れ、同郷コミュニティ推薦の男ではなく現地仏人と恋愛するリアルさや、フランス人よりも自分たちが優れていると語り、"フランス式朝食"という言葉に"コーヒーもフランス産か?"と返すパワフルさがある。反面、クリシェを多用してしまった感のあるジャン篇とアーネスト篇は若干陳腐なので、途中で力尽きたのだろうか。惜しいなあ。
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