KnightsofOdessa

グローリア!のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

グローリア!(2024年製作の映画)
4.0
[音楽を理論や楽譜や権力や階級から解放する映画] 80点

傑作。2024年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。シンガーソングライターとして有名なマルゲリータ・ヴィカーリオ長編一作目。1800年を迎えたヴェネツィア近郊にある救済院にて、音楽に関する三つの視点が入り乱れる物語。この救済院では身寄りのない子供たちに楽器を教えて聖歌隊としていたが、指揮者兼作曲家の院長は別に人身売買なども行っているようだ。一人目のテレサは声を仕舞いこんだ孤児の少女。今は下人として働いている。彼女は院長の裏仕事の餌食となって、知事の子供を産まされた過去を持つ。二人目のルチアは救済院の第一ヴァイオリニストであり、貴族の子息との婚約が決まってるが、自分の作曲が進まないことに苛立っている。三人目は院長で、一ヶ月後に迫った教皇訪問を迎える新曲を作れないでいる。三人はそれぞれ、内側から音楽が湧き出してくる人、考えた音楽を理論に当てはめる人、全く音楽が浮かんでこない人というように分けられ、音楽が理論と権威によって固められるこの時代に苦しめられている。最初からファンタジーを作ることを志していたと監督が語るように、強引な展開や唐突に登場するアイテムなど、色々と接続の悪い部分は散見されるものの、音楽を理論や楽譜や権力や階級から解放する映画なので、勢いで押しきる感じもテーマ的に許容されるのが強いし良い。特に終盤の、シスターフッドを結び直し、音楽を解放したシーンの多幸感はとても好き。
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