ニュートンのリンゴ爆弾。
うだつの上がらない俳優が、ヒーロー映画「バッドマン」の主役に選ばれた!人生を賭けた挑戦にやる気満々で臨むが、撮影の帰路で交通事故に。
目覚めた彼はなんと記憶喪失。しかし、車内にあったスーツや小道具を見て理解するのだった。「俺はスーパーヒーローだったのか!」と…
タイトルやメインヴィジュアルを見れば瞬時に理解する通り、MARVELやDCといった近年の大作アメコミヒーロー映画を見事なリズム感でとことんイジり倒す快作。もちろんそれらの映画を知っていれば知っているほど抱腹絶倒のボーナスアワーが過ごせる。
バットマンはもちろんアベンジャーズにスパイダーマン、X-MENもカバー。
かなり節操なく切っているけれど、同時に細かく諸作品を観尽くしていることも伝わってくる。このあたりはフランスらしい品を保った(とはいえ下ネタも多いが)匙加減だろうか。
たぶんわたしも気づけていないネタがゴロゴロありそうなのだけれど、個人的にはMCU最愛である『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ネタを多めに押さえてくれている(なんと「あの曲」まで使って!)のがポイント高くて贔屓しちゃう。
しかし、単なる出落ち一発のお気楽パロディ映画なのかと思いきや、意外にもテクニカルな面に裏打ちされているのが今作。
中でも、伏線の回収がちょうど忘れかけたくらいの頃にやってくるのがとびきり気持ちいい。小さなギャグの弾幕をばらまいて笑かしておきながら、裏で着々と奇襲の策を練っているのである。
その技はコメディ要素だけではなくストーリー構成全体にも生かされていて、冒頭に明らかな形で提示される「主人公の自己実現」「父と子」といった大目的に自然と誘導され、「きっと強盗犯とのいざこざに収束するんだろうなあ」と予測できるようになっているのだけれど、おそらくそれも計画通り。最後の最後には「そこもそんな解決するんだ!?」というオマケが背後から顔を出す。
監督・主演を共に務める男、フィリップ・ラショー。
こいつはきっと、料理をやらせても調理と盛り付けと洗い物を並行で終わらせる「デキる子」だ。主夫の才能があると思われる。
劇中には、「ヒーロー映画といってもフランスには大した予算なんてないから」なんてメタで自虐めいたセリフがある。
しかし、かのアイザック・ニュートンもかつてこんなことを書いているではないか。
「私が彼方まで見通せたのだとしたら、それは巨人たちの肩に立っていたからだ。」
この文の通り、今作はハリウッドという巨人の肩に確かなリスペクトとアイデアをもってするりと登り、高くへジャンプした素敵な一作なのだ。