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我々の父親の消費者のレビュー・感想・評価

我々の父親(2022年製作の映画)
4.6
・ジャンル
ドキュメンタリー/クライム

・あらすじ
インディアナ州インディアナポリスで生まれ育った女性ジャコバ・バラードは成長するにつれある違和感を抱く様になった
それは家族の中で自分のみがブロンドで青い瞳を持っているという事
自分は養子なのでは?と思い母に尋ね続けると10歳の時、とうとう真相が明かされる
彼女は精子提供で産まれた子供だった
父が子供を作れない体だった為である
そして時は経ち2014年
家庭を持ち幸せに過ごしていたジャコバだったが出生の秘密を知った事からある希望を持ち続けていた
同じドナーからの精子提供は3人が上限
ならば1〜2人自分には兄弟がいるのでは?という事
兄弟探しの為、血縁者を調べられるサイトの利用を開始したジャコバ
すると彼女には7人も兄弟がいる事が判明
嫌な予感がし、調査を進めていくと生物学上の父として1人の男が浮上
男は母に不妊治療を行った医師ドナルド・クライン
彼は患者女性に自信の精液を注入し続けていたのだ…

・感想
30年以上もの時を経て判明した元医師ドナルド・クラインの所業
その背景や動機を追うと共にそれがもたらすリスクや遺伝による被害、彼の血を引く無数の兄弟姉妹達の心情等を当事者や関係者達のインタヴューや再現Vによって世界へと広めたドキュメンタリー作品
ホラー映画ではないがブラムハウスが制作に携わっている

本作が話題になった当時、犯行自体はおぞましく感じたもののそれがどんな影響を生み出したかまでは想像が及ばなかった
実際に鑑賞してみると彼の精子によって産まれた人々のショックのみならずあまりにも被害が幅広くそのおぞましさにゾッとした
被害者間での近親相姦リスク、変化する周囲の人々を見る目、母を犯された事への怒り、遺伝性の疾患…
知らせれば人生を破壊しかねないというジャコバの葛藤からは先日鑑賞した「同じ遺伝子の3人の他人」にも通ずるグロテスクさが感じられる

そして本作の後半で追求されていくドナルド・クラインの動機
作中では仮説とされていたもののそれが正しい可能性はかなり高く感じられる
端的に言えばカルト思想による陰謀なんだけどこれもまた「同じ遺伝子の〜」と近しい
序盤から度々示されていたキリスト教の要素がこんな最悪の形で絡んでくるとは…
加えてほぼ事実と判明した今でも検察や判事等の腐敗により彼は未だ野放しという闇の深さ

罪に問えない以上、世界に伝え続けていく事が必要
私は死ぬまで戦い続ける
これらのジャコバと他の“兄弟”達の決意
そこに至るまでどれだけ辛い想いをしてきたのか?
事細かに全てが露わにされた本作は可能な限り多くの人々が観るべき作品だと感じる

作品制作時点で判明した兄弟・姉妹の人数は94人
ドナルド・クラインと同様の犯行をした医師が他に44人も存在する
そんな更に視聴者の気持ちをドン底へと突き落とす最後に明かされた事実
それらも含めてどこまでも救いがなく人間社会に絶望しか感じ取れなくなる
それでもやっぱり観なければならない
そういう大きな意義を持つ記録だと思う
ただ彼は完全なサイコパスで事実が明るみに出た後の行動も酷いのでHSP等の人には無闇に勧められないかも…
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