柊

ヴィレッジの柊のレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
4.0
何は置いといて、木野花とにかくすごかった。
エンドロールまで本人である確信が持てなかったくらいに役者ってすごいなぁって…まず感想はそこからです。
木野花本人による謡だと思うけど、ここにきての唯一のセリフが,謡とは。
エンドロールが終わった後の弟の村を去るシーンはいらなかったかな。横浜流星のアップでエンドで良かったように思う。そのくらい横浜流星頑張った。

村の因習がテーマとはみんな言ってるけど、私はこれは村という閉鎖社会が云々というより、やはり金と権力の駆け引きにより翻弄される人間の物語であると思う。たまたま舞台を村にしただけ。
その村という背景も何も無い村という割には,祭りに面を付けて行列する人数はとても過疎の村とは思えないし、何軒もの立派な茅葺き屋根の住宅も人が住んでる気配。普通はもう空き家で朽ちていてもおかしくない設定だって有りなのに茅葺き屋根の村落は妙にしっかり生き生きして見えた。パチンコ屋もあるみたいだし…普通過去の村にはパチンコ屋すらないでしょ。
なので架空の村が村とは言い難いような気がする。いろいろな意味で人間の醜い面が浮き彫りになって…でも繰り返すけどこの現象って村だからという括りではちょっと寄り切れないような気がする。エコを押し出したゴミ処理施設をカモフラージュに違法投棄をその筋の者から受け入れる村の裏顔、そこに集まるのはスネに傷を持つような人生の負け犬達といろいろぶっ込んでくるけど、ゴミ処理場を観光の目玉にして100万人の来村とはちょっと非現実的。

なので設定と展開に現実感が無いけど、出演者は皆その架空の村人の話をとても魅力的に演じていたと思う。とどのつまり村人に真に良い人が誰もいないと言う結論。さらにこの村に関わる人も誰も良い人がいない。その中でも村長の息子とおるは手に施した刺青からもクズ。もちろん村長も。黒木華の役もとおるを殺してしまう事以外悪い描写は無いけれど、この姉弟の行動は何かどこか怖い。それに一番翻弄されたのが横浜流星演じる優さん。優さんの代わりに殴られ役になってしまった金髪のお兄ちゃんが忠告してたように、「背負いすぎないで」と言うセリフ。黒木華とその弟が優さんを追い込んでいたのは事実。村の未来を勝手に託され、ヒーローだと勝手に思い込まれがんじがらめにされた優さんの追い詰められた心が父親と同じ運命を辿ってしまう悲劇へと繋がっていく。この姉弟の行動が幾重にも重なって…優しい顔した黒木華がとても怖かった。同じく上手く言葉を発せない弟の正義感も怖かった。もしかしたら村から出る為に弟は優さんを利用した?とか深堀してしまうくらい。そうでなければラストシーンの説明がつかない。横浜流星のあの何とも言えない最後の表情は秀逸。
ただ綺麗な男だけでは無いここ最近の横浜流星。あえて汚れ役を演じるスタイルはまるで少し前の松坂桃李スタイル。ここまで汚れ役を演じればあとはなんでも来いだ。「流浪の月」のDV男に続きいい味出してたと思います。素が整っているけれど姿勢を悪くしてあえて卑屈な雰囲気。爽やかさをいっさい消し去り泥や血で汚れまくった横浜流星の今後に期待しか無い。

そして中村獅童伊達に伝統芸能畑の人じゃ無いって感じで,歌舞伎と能はもちろん違うけど素人には出せない雰囲気で、初めてこの人歌舞伎界の人だったと思い出した。
それでもやっぱり木野花がMVPです。
柊