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ザ・メニューのmatchypotterのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.8
さすがサーチライト。

最近、A24とか、ブラムハウスとか新進気鋭の製作スタジオが秀逸な企画と期待を超えてくる切れ味の良いホラー、スリラー、ミステリーを仕掛けてくるが。
もちろんそれはそれで面白くて次から次へと待ち望んでいるのだけど。

そんな中でサーチライト、やっぱりそれらに負けない、老舗たる所以をここで証明する。王座の貫禄というか。

アニャテイラージョイ。
この独特の切れ味の良い表情と、唯一無二の強力な眼力から放たれる美しさ。

このミステリアスな彼女を起点として、何かが少しずつかけ違えて、ボロボロと剥がれて顔を覗かせてくる“狂気”。
その相性がすこぶる良い。

レイフファインズ。この作品の“狂気”の肝である名声を欲しいままにした厳格な敏腕シェフ。
彼と言えば『キングスマン』とか例の“名前を言ってはいけないあの人”。

そのここまでの彼のキャリアが、この“狂気”を「これが、私のフルコースです」と言い切る凄みに乗り移る。

世界に名を轟かせるシェフが、とある島のレストランで、選りすぐりの著名人やら、金持ちやら、料理評論家やら、豪華な面々を集めて開く晩餐会。

一流のシェフが、一流の食材で、一流のスタッフと機材で織りなす超一流のフルコース。
それを選ばれた人達だけで堪能するプレミアムな、プライスレスなフルコースのはずだった、、、。

最初から端々に、こだわりを通り越した“何か”を感じざるを得ない。まさにそれをどう料理してくるのかと思えば、その“狂気”は突然、ものすごくドストレートな形で訪れる。

なんか変な空気が、微妙に少しずつ形にはなっていくのだが、やる時はあからさまにこれ見よがしに杭を打ってくるわかりやすさ。

それでも目の前で起きたことに信じられない人もいれば、認めない人もいる。その異様な空気感。

その中でやたらと飄々と、シェフを心酔しきって動じずにモグモグ食べ続ける男、ニコラスホルト。
彼がアニャテイラージョイを連れてきたわけだが、元々同行するはずの人物は彼女ではなかった。

その辺の予期せぬズレがフルコースやシェフの理念に反してくる点が恐ろしい。

フルコースには“物語”がある。
食材や、調理法を駆使して描く“物語”。
オードブルからデザートまで、その“物語”は、テーマを引っ提げて、そのテーマを描き切ることで完成するのがフルコース。

そのテーマが“それ”であったなら。
その“物語”はそこに向かう他ない。それがフルコースだから。
しかし、それに気づいた時、招かれた客人達は、どうその“物語”と向き合い、決着させるか。

料理や仕掛けの数々で、客人達に有無を言わさぬ形で、1人1人それぞれに最も刻まれる形で、伝えてくるメッセージ。

やたらと手の凝った斬新的な芸術のように繰り出される料理から、最後の最後でアニャテイラージョイがオーダーする“例の食べ物”。

この対照的な描き方や、それを作っている時のレイフファインズの表情や哲学。

完璧主義のシェフだからこそ、すべてが仕組まれ、アニャテイラージョイの最後にも繋がる。

一切のルール違反を認めない料理人だからこそ、その料理の“流儀”を侵せないことを逆手に取る抵抗。

料理を突き詰め、己の全てを注ぎ、新しく且つ集大成とする完璧にその絶望の“ゴール”に向かい描き切るフルコースの“物語”をとくとご堪能あれ。

完膚なきまでに徹底的に芸術的な彼が覇道を貫いてこそ、最後のアニャテイラージョイの言動が冴える。


F:1909
M:4444
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