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ザ・メニューのKEiGOのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

あるアーノルド・Dのすゝめ
「久しぶりに分からない映画を観たのかもしれない…」
そう思いながら劇場を後にするも、不思議と読後感ならぬ"食後感"に満たされながら帰路に就いた。
所謂、昨今のハリウッドに対する批判のひとつなのか、あるいはそれ以上のテーマを内包しているのか…。作品を鑑賞しているときは正直イマイチ判然としませんでした。そうして小一時間ほどパンフレットを読みふけっていると、ようやく僕の体がこのコースを消化し始めたようです。

本作は一見、料理業界、美食文化に対するアイロニーのように感じられるが、それだけでなく我々客こそがアイロニーの対象なのではないか。レイフ・ファインズ演じるシェフ スローヴィクが抱えてきた自己矛盾。それを生み出したのは外ならぬ我々客だからだ。無論、これは”料理”だけに代表される話ではない。映画、音楽、書籍、服…そういった数々の文化が大量に使い捨てられていく現代社会そのものへの皮肉だ。そう思うと途端に腑に落ちる。副料理長の”メニュー"や左手の薬指を切り落とす、タイラーを自殺に追い込む等、過激な演出が目につくが、もちろんこれは映画としてのエッセンス。センセーショナルの一歩先に踏み込もう。なぜ副料理長にはその選択肢しかなかったのか、なぜスローヴィクは老旦那の薬指を切り落としたかったのか、なぜ首を吊らせるよう仕向けたのか。そう考えると、彼の言った"与える者"と"奪う者"の関係性が鮮明になってくる。

これを場面転換をほぼすることなく107分という尺で表現しきったのは本当にお見事としか言えない。緻密に計算されたプロットと演出、そしてそれを巧みに演じ切った役者。この3者がこのフルコースを作り上げたと言っても過言ではないだろう。

いろいろなレビュー[1,2]でも触れられていますが、決して気持ちのいい映画ではありません笑
それでも、世間に抗う天邪鬼なあなた、もしくは鏡に映る汚れた自分と向き合う覚悟があるあなた。ぜひ召し上がって頂きたい作品です。



参照
[1] "『ザ・メニュー』感想(ネタバレ)…映画も考察も気取るのではなく味わって", Nov 25, 2022, Cinemandrake, https://cinemandrake.com/the-menu2022
[2] Anton Bitel, "The Menu: a tense tale of slow-cooked revenge", Nov 21, 2022, BFI, https://www.bfi.org.uk/sight-and-sound/reviews/menu-tense-tale-slow-cooked-revenge
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