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ザ・メニューのRenのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
4.0
世論は否寄りの賛否真っ二つっぽいけど、面白かった。小難しく考えなくともアイデアスリラーとして楽しめるが、単純に一億総 "評論家" 時代の我々へ送るアート(笑)と権威の寓話として楽しんだ。ちょうど飽きない尺に収めていたのもとても良かった。

なんとなく難しそう、つまらなさそうと敬遠している方に向けて今作を簡潔にプレゼンするなら、
「笑ゥせぇるすまん〜ザ・ハントとミッドサマー風味レミーのおいしいレストラン仕立て、パラサイト 半地下の家族を添えて〜」

批評に晒されるアートと言えば映画や音楽や文学や絵画・彫刻などがまずあるけど、今作では料理にスポットを当てる。料理は自己表現のためのアートである一方、人間の欲求(食欲)とダイレクトに結びついたものであるということが重要。

あらゆる創作料理で魅せる導入がまずとても良い。スローヴィク(レイフ・ファインズ)がサーブする、パンの乗ってないパンの皿みたいなフザけたメニューを見ているだけでもツッコミながら楽しめる。デュシャンの『泉』の料理バージョンみたいなものが次々と見られて愉快だった。
そんなメニューを小難しい顔をした客が食していく。彼らは「評論家ぶったちっちゃい評論家」というよりも「明らかにヘンな/客商売失格なことをしている権威者にNoと言えない小市民」だと思った。皿に込められたストーリーや意図を汲み取ることが優先になってしまい、料理の本来あるべき姿勢がどんどんおざなりになる。

そこで手を挙げるのがアニャ・テイラー=ジョイ扮するマーゴ。彼女は客の中で唯一大きな声でNoを言える人間であることが早い段階で明かされる。
映画の始まりと終わりで、彼女自身は変わらない。変わるのは一体誰なのか?という点も予想外で面白かった。詳述は控えるが、今作のアニャはほぼ喪黒福造。ラストはしっかりドーンだ。

開始40分ほどで訪れるある展開のせいで、これも結局『ソウ』または『ザ・ハント』のようなB級スリラーかぁ〜と若干がっかりしたのも束の間、物語は意外な方向へ収束していく。R指定ものとして色々期待してしまうと肩透かしかもしれないが、やりたいことの技巧とテーマの見せ方で最後まで面白かった。

その他、
○ プロローグを爆速で済ませる手際の良さがいい。何も起こらないシーンは極力見せない。
○ 経験もないのに御託だけ並べる口数の多い評論家気取りのことを本当に嫌いな人間が製作陣にいたのだろう。後半のあの流れは滑稽で笑えた。
○ 建物のデザインが『パラサイト 半地下の家族』をどこか彷彿とさせる。無理やりだけど、権威者と従事者が閉じ込められた箱というモチーフも似ている。
○ アニャとフローレンス・ピューはそろそろ違う役やってもいいのでは?男性性に囲まれた中で起立する女性に(役者として)なりすぎてない?
○ 梅干しを英語でUmeboshiと言うのを初めて知った。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










『レミーのおいしいレストラン』というこれまた料理を題材にしたピクサーの傑作がある。この映画では、ひたすらに名店の料理に酷評を下すイーゴという評論家(権威)の内面の変化が一つの見所となっている。『ザ・メニュー』はこの『レミー ~』を想起せずにはいられなかった。
アートとしての完成度を追求する権威者の変化。素朴なメニューが、彼らを「店とは対価に見合ったサービスで客を満たす場所であり、料理とはまず楽しむものである」という根源に立ち返らせる。イーゴにとってのラタトゥイユは、スローヴィクにとってのチーズバーガーだった。

ラストは『ミッドサマー』か『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』か。そんな惨劇を尻目にマーゴは、お疲れ様、私はこの料理を楽しむね、と、あの散々なメニューが書かれたメニュー表で汚れた口を拭う。灰と化した社会を見つめる彼女が、神の視点人物に見えて仕方なかった。

↓↓おすすめ動画↓↓
『【超ウマい】アメリカ式の絶品ハンバーガーをBBQ場で作る』
https://youtu.be/cJRlyOpoWYc
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