ショパン

ザ・メニューのショパンのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.5
このシェフにとって料理は、味も演出もこだわり抜いて生み出す芸術作品のような感覚。
孤島というロケーション、食材も自家栽培や漁で調達。完璧に作り上げた設備に客を招待し、オープンキッチンで一品ごとにシェフがスピーチを行う。客の反応を感じ取り、コミュニケーションを取るスタイル。
ここまでの理想を具現化するためにシェフが払った労力は計り知れない。

空間演出や食材に至るまで全て異常なほどのこだわりを結集させ、供される孤高の料理。しかし受け取る側の客が、それに値しない事に対する「欲求不満」が溜まっていく。

客は選べない。予約困難な店に行くステイタスだけが目的の客、何度も来ていても一品も覚えていない客…。
このシェフは、自分の理想や美意識を究極まで追求し過ぎた。そして客に、自分の作品を受け取るに値する高いレベルを要求し、それが叶わない事への不満や恨みを募らせた。

シェフは執着が異常に強い分、エネルギーが負の方向に行った時には狂気的な発想に至る。
スタッフ達は、恐しいほどの才能と狂気を併せ持つシェフを絶対視しているようで、洗脳状態にある模様。

シェフは、料理に手を付けないマーゴを女子トイレの中まで追って行き執拗に問いただす。だがマーゴには金持ち客とは違う何かを感じ、彼女を見定めようとする。
終盤でマーゴが、それまではぐらかしていたシェフの料理を食べなかった理由を伝え、チーズバーガーを注文した事が運命の分かれ道となった。シェフは、チーズバーガーを作って客に振る舞う事で料理人の原点に一瞬立ち戻ったように見えた。

しかしそれも束の間。マーゴの事は逃す事にしたものの、壮大に演出された悪夢のコースをやめるはずもなく。
最後までこのシェフにとって客は、自分のインスピレーションを受け取る対象だった。病的なインスピレーションであっても。
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